48話 里見義堯との会談
城の奥、政を司る静かな広間。
ここは「当主の間」ではない。
領主・里見義堯が、領内の要事を聞き、裁断を下す場。
上座に座す義堯は、武の威よりも
長く政を担ってきた者特有の重みを纏っていた。
正木家当主と、その娘・桜。
桜は父の半歩後ろに控えながらも、
すでに“話す者”としてここに立っている。
「……なるほど」
義堯は、腕を組み、低く息を吐いた。
「婚姻を外へ出さず、
領内で力を循環させる、か」
桜は黙ってうなずく。
「確かに理屈は通る。
だが――」
義堯の声が、わずかに鋭くなる。
「それは、
姫を“政治の中心”に据える策でもある」
「はい」
桜は、はっきりと答えた。
「まな様を、
守られるだけの存在には致しません」
家臣の一人が、思わず声を漏らす。
「八つの子が、
姫を政治の中枢に据えると申すか……」
義堯は、その家臣を制し、桜を見据えた。
「桜」
「はい」
「その覚悟は、
誰のためのものだ」
桜は、一瞬だけ目を伏せる。
――まなの泣きそうな顔が、脳裏をよぎった。
そして、顔を上げる。
「里見のためです」
静かだが、迷いのない声。
「姫が外へ嫁げば、
里見は一時、楽になります」
「ですが、
争いの種は必ず残ります」
「ならば、
姫が“ここに在り続ける理由”を
作るべきだと考えました」
義堯は、しばらく無言だった。
やがて、深く息を吐く。
「……正木」
父が一歩前に出る。
「この策、
失敗すればどうなる」
父は一瞬、桜を見る。
そして、答えた。
「正木家が、
全責を負います」
義堯の目が、細くなる。
「重い言葉だ」
桜が続ける。
「ですから」
「桜と配下は、
まな様の配下となります」
「金も、人も、知恵も。
すべて“姫の名”で動かします」
「桜は、
前に出ません」
義堯は、ふっと笑った。
「出ない、と言いながら
一番前に立つつもりだろう」
桜は、小さく首を振る。
「前ではなく、
下に立ちます」
「支える者として」
その言葉に、
広間の空気が変わった。
義堯は、ゆっくりと立ち上がる。
「……よい」
桜の胸が、跳ねる。
「即断はせぬ」
「だが、この話――
軽くは扱わぬ」
義堯は、桜を真っ直ぐに見た。
「八つにして、
ここまで考えるか」
「恐ろしい娘だ」
だが、その声には、
わずかな愉しさが混じっていた。
「まなの件、
預かろう」
「正木。
そして桜」
「これは――
里見の未来を左右する話だ」
桜は、深く、深く頭を下げた。




