第46話 桜のおしろい改革
最初に気づいたのは、顔色だった。
「……最近、疲れやすくない?」
桜は、配下の少女たちの顔を一人ずつ見ていた。
白く整えられた肌。けれど、その奥に、どこか鈍い色がある。
幸恵が首を傾げる。
「でも、みんな同じ白粉だよ?」
その言葉で、桜の脳内に警鐘が鳴る。
(――白粉)
脳内戦略会議・緊急招集
(鉛白粉。
美しく見えるが、毒だ)
前世で読んだ医学書の一節が、はっきりと思い出される。
・頭痛
・倦怠感
・腹の不調
・不妊
・早死に
(病気じゃない。積み重なる毒)
桜は、唇を噛んだ。
皆との話し合い
「ねえ、白粉って……本当に必要?」
突然の問いに、皆がざわつく。
「え?」 「お化粧は当たり前じゃ……」
桜は否定しない。
ただ、順を追って話す。
「“白くする”こと自体が悪いんじゃないの
“何で白くしているか”が問題」
香織が目を見開く。
「毒……なの?」
「うん。少しずつ、身体に溜まる」
沈黙。
そして、野乃が言った。
「じゃあ……作り直せばいい?」
桜は、静かに笑った。
「それを、今からやる」
試行錯誤、再び
秘密の小屋。
机の上には――
・米粉
・貝殻を焼いた粉
・胡粉(未精製)
・蜜
・椿油
「白くするだけなら、選択肢はある」
だが、問題は多い。
・肌に乗らない
・崩れる
・粉っぽい
・湿気に弱い
知子が顔をしかめる。
「前のより、使いづらい……」
桜は頷く。
「でも、毒はない」
それが最優先だった。
父への説明
父は最初、半信半疑だった。
「白粉で病になる、だと?」
桜は、医薬の帳面を開く。
「“すぐ”ではありません
でも、確実に弱ります」
そして、静かに告げる。
「女性が早く亡くなる理由の一つです」
父は、言葉を失った。
正木式白粉
数週間後。
ようやく、形になる。
・鉛不使用
・胡粉を細かく精製
・油分で密着
・汗に強い
白さは控えめ。
だが、健康な色だった。
幸恵が鏡を覗き、言う。
「……長く使えそう」
それが、何よりの評価だった。
波及
城下の女たちが、噂を始める。
「正木の白粉は、疲れない」 「肌が荒れない」
薬ではない。
だが、確実な医療改革。
桜は夜、帳面に書き記す。
(病を治す前に
病にならない仕組みを作る)
医薬への挑戦は、
もう始まっていた
正木式白粉(鉛不使用)の製法
基本思想(桜の脳内会議まとめ)
白さより健康
皮膚から体内に入るものは「薬と同じ」
毎日使うものほど、弱く・優しく
主原料
① 胡粉※精製度を上げる
材料
貝殻(牡蠣・蛤など)
作り方
貝殻をよく洗い、天日で完全乾燥
炭火でじっくり焼く(完全に白くなるまで)
冷ました後、石臼で細かく粉砕
水に溶かして沈殿 → 上澄みを捨てる
(これを数回繰り返し、不純物を除く)
最後に布で濾し、乾燥させる
市販の胡粉より「沈殿精製」を増やし、粒子を極限まで細かくする。
米粉(肌なじみ用)
うるち米を蒸し、乾燥させて粉砕
胡粉だけだと硬すぎるため、肌の柔らかさを出す役割
つなぎ(密着・保湿)
椿油(少量)
酸化しにくく、肌を守る
入れすぎると化粧崩れの原因
蜜(ごく微量)
粉の飛散防止
皮膚への定着力を上げる
配合比
胡粉:7
米粉:3
椿油:数滴
蜜:米粒一つ分
桜のメモ
「白くしすぎない。血の色が“生きている証”」
作り方(仕上げ)
胡粉と米粉を完全に混ぜる
椿油を一滴ずつ落とし、木べらで練る
蜜をほんの少し加え、再度練る
布で包み、軽く押して余分な油を抜く
陰干しで乾燥
使用時は刷毛で薄くのせる
特徴(従来品との違い)
項目
従来の白粉
正木式
成分
鉛
貝・米
白さ
強い
控えめ
毒性
蓄積あり
なし
肌荒れ
起きやすい
起きにくい
長期使用
危険
安全
「疲れにくい」
「肌が荒れない」
「化粧を落とした後も顔色がいい」
桜の結論:
「これは化粧じゃない
皮膚の薬だよ」




