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『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


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第44話 静かなる処分

処分は、夜のうちに行われた。

捕縛でも、晒しでもない。

朝になって、いなくなっていた。

名簿の空白

城の詰所。

当番表から、三つの名が消えた。

・浜の夜回り

・城下南の見回り

・農道の巡察役

代わりに、赤い墨で一行。

「職務不適・即日解任」

理由は書かれていない。

問いただす者も、いない。

静かな波紋

三日後。

城下の井戸端で、囁きが広がる。

「この前までいたよね」

「急に見なくなった」

「病か? それとも……」

誰かが、小声で言った。

「箱に入れたからじゃないか」

その言葉は、風のように広がった。

恐れと安堵

浜では、漁師が酒を控えめに飲みながら言う。

「言っていいんだな……」

城下では、商人が様子を見る。

「本当に、見ているらしい」

農村では、老人がうなずいた。

「昔は、言った者が消えた

今は……違う」

桜の視点

桜は、あえて何も言わなかった。

処分の理由も、名前も。

説明も、声明も。

(語らせるのは、人の口)

父が言う。

「噂は制御できんぞ」

「制御しなくていいのです」

桜は静かに答えた。

「“事実だけ”が残ります」

・不正をした者はいなくなる

・箱に入れた者は罰されない

それだけでいい。

処分された者たち

城の外れ。

三人は、里見領外へ追放された。

刀も、役も、後ろ盾もない。

「なぜ、あの箱なんか……」

悔やんでも、遅い。

目安箱の変化

一週間後。

箱の中身が、変わった。

・名前を伏せた具体的な訴え

・日時と場所の記録

・複数人の同じ内容

桜はそれを見て、確信する。

(人は、信じ始めている)

しかし――

同時に。

城の奥で、別の声も上がり始めていた。

「監視されているようで気味が悪い」

「箱は、行き過ぎだ」

「いずれ我らも……」

桜は、目を伏せる。

(次は、守る番)

制度を。

そして、箱を使う人を。

目安箱の前で、人は立ち止まるようになった。

入れる者。

通り過ぎる者。

遠巻きに見る者。

同じ箱なのに、映る意味は違う。

囁かれる不安

城下の役人の詰所。

「最近、話しづらくなったな」 「誰が聞いているか分からん」

酒の席で、そんな声が増えた。

「正しいことをしていれば問題ない」 そう言いながらも、杯は進まない。

恐れているのは、罰ではない。

曖昧な境界だった。

どこからが“不正”で、

どこまでが“裁かれる”のか。

一方で

夜。

農家の土間。

「書いてみるか」 「本当に、大丈夫か?」

小さな灯の下、震える手で紙を折る。

・水路の横領

・不当な労役

・役人の横暴

名は書かない。

だが、事実は書く。

「……明日、入れてくる」

それは、祈りに近かった。

桜の脳内戦略会議

(まずいな)

桜は気づいていた。

制度が機能し始めたとき、

必ず起こる――分断。

・使う者

・恐れる者

・潰そうとする者

(箱そのものが“敵”になる前に)

父との会話

「父上、次は“見える化”が必要です」

「箱の中身をか?」

「いいえ。処理の流れを」

桜は紙に書く。

受理

調査

判断

結果

「匿名でも、

“どう扱われるか”が分からねば、恐怖になります」

父は腕を組み、唸る。

「だが、公開しすぎれば……」

「だから、基準だけです」

誰が裁かれたかではない。

どういう行為が問題になるか。

掲げられた一枚

数日後。

城下に貼り出された木札。

目安箱に入れられた訴えは

私情では裁かれぬ

三人以上の確認

事実の照合

反論の機会

それを経て判断する

名前は、ない。

だが人々は知る。

(闇討ちではない)

空気の変化

役人の間で、会話が戻り始める。

「線が引かれたな」 「ここまでは大丈夫だ」

農民は言う。

「これなら、入れられる」

商人は計る。

「正木は、長く持つな」

桜の独白

夜、帳面を閉じながら桜は思う。

(制度は、剣より脆い

でも、人の理解があれば――折れない)

箱は、裁くためではない。

聞くための耳だ。

それを忘れさせない限り。

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