第5話 運命のうつけ姫
さて今回は少し本文と離れますが、今後大変重要な役回りの人との出会いがあります。
この小説は歴史考査を忠実に再現しているわけではありません。
ご了承ください
また、今後いろいろな人物が登場しますが、歴史的に存在していない人が多くコミカルな話になればよいと考えています。
歴史好きな方、歴史考査を無視したりと、気になる方は違う物語として読んでもらえれば幸いです。
矛盾点が見つかり改訂しました
「……桜、聞こえておるか?」
父・正木綱胤 の声は低く、いつになく硬かった。
「ん、んん……?」
桜は寝間着の袖を握りしめ、眠気を振り払うように目をこすった。
「里見家より使いが来た。そなたと共に城へ参れとのことだ」
「城……里見のお城?」
(まさかこんなに早く呼ばれるとは)
「うむ。だが安心せよ、我も同行する。桜は共に向かうだけで良い」
「……わかった」
桜は小さな手で布団をぎゅっと握り、心の奥でざわめく感情を押し込めた。
◇
城へ向かう道は、房総の潮風が香る丘陵を越える細い街道だった。
今でいう千葉県南部の山道と海沿いが混じる土地——桜の前世ならドライブコースだった場所だ。
(ああ、今は馬で揺られてるけど)
ガタ、ガタ、ガタ——
馬の振動は思考を乱し、桜は眉間に皺を寄せる。
(集中しろ。私は5歳。落ち着け。平常心。平常心ってなんだっけ?)
「桜、顔が怖いぞ?」
父が苦笑しながら言う。
「……え、そう?」
(しまった、脳内会議が顔に出た)
「まるで戦を企んでおるようだ」
「企んでないよ!」
「なら良いがな。ははは」
(やっぱりこの父、勘が鋭い)
◇ 城門前
城門は黒光りする板張りで、重々しくそびえていた。
そこへ駆け寄る影がひとつ。
「桜ちゃーーーん!!」
元気すぎる声。
声の主は、里見家の姫——里見 まな(さとみ まな)7歳 だった。
髪は振り乱れ、小さな刀(木刀)を背負い、草履の片方が半分脱げている。
「わあ! ほんとに桜ちゃん小さい! かわいい!」
「ま、まな姫さま?」
桜は驚きで固まる。
「さま いらない! まなでいい!」
(距離感近ッ!? いきなり呼び捨て!?)
「んじゃ、まな……ちゃん?」
「ちゃん も いらない! まな!」
「まな!」
「よし! それでいい!」
満面の笑み。
城の空気すら震わせる勢いだった。
◇ 里見家の広間
広間では家臣たちがざわついていた。
「うつけ姫がまた刀を持ち出しておるぞ…」
「やんちゃがすぎる…」
「里見の恥などと言う者もおるが…まだ幼いゆえ…」
(うつけ姫……現代なら “問題児” か “カリスマ破天荒ガール” か)
桜はチラリとまなを見る。
まなは桜の袖を引き、こっそり囁いた。
「ねえ桜、うつけってどういう意味?」
「……たぶんね、みんなと違うってこと」
「じゃあ褒め言葉じゃん!」
(ポジティブすぎる)
◇ 脳内戦略会議、開始
(この姫……放っておけないタイプだ)
「桜、まなと話せ。奥でゆっくりで良い」
里見家の当主からの配慮で、2人は庭に面した縁側へ移された。
「ねえ桜、これからどうするの?」
「うーん……」
(どうする? って聞かれてもまず私は今が何年かまだふわっとしか…)
「桜、悩んでる顔もかわいい」
「かわいい禁止!」
「禁止ってなに!」
「……褒めるの いっかい まで!」
「もう3回言った!」
(前世の癖が言語化される)
◇ 桜、ぽろっと未来を漏らす
桜は足をぷらぷらさせながら、つい口を滑らせた。
「ね、まな。もしさ……畑がもっといっぱい収穫できて、病気を治す薬とか、お肌の匂いがする白粉とか作れたら、この国もっと強くなると思わない?」
「思う! めっちゃ強くなる!」
(めっちゃ……?)
「でしょ? だからね——」
(待て待て待て、私今なに語り出そうとしてる?)
「桜?」
「……なんでもない!」
「えー! 今の気になる!」
(まずい、改革プランを全部喋りかけた)
◇ まなの核心
まなは突然、真剣な目をして言った。
「桜ってさ、なんか違うよね。みんなと違うっていうか……先のこと見えてる感じ」
「……見えてないし!」
「じゃあ脳内で誰と話してんの?」
「自分!」
「こわッ!」
(あなたが言うな)
◇ まなとの誓い
まなはふっと笑い、木刀を桜に向けた。
「じゃあ桜、これからも まなと遊べ。で、まながうつけって言われても、桜は笑うなよ?」
「笑わない。まなはまなだもん」
「……よし、約束な!」
「うん!」
2人の小さな影が、夕陽に伸びた




