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『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


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第37話 都を見たいと願った日

「……父上」

夕餉のあと、

桜は珍しく言いよどんだ。

父・綱胤は湯呑みを置き、娘を見る。

「どうした、桜」

「……大阪の町と、京を、見てみたいです」

一瞬、部屋が静かになる。

母・椿が、驚いたように目を瞬かせた。

「京、ですか?」

「はい」

桜は背筋を伸ばした。

「物が集まり、人が動き、言葉が行き交う場所を見たいんです」

「ここだけを見ていては、

 これから先のことが、考えきれません」

――少し大人びた言い方。

だが、父は否定しなかった。

「……殿の許しがあれば、だな」

その一言に、

桜の胸が少し高鳴る。

突然の呼び出し

数日後。

里見家からではなく、

京からの使者が正木家を訪れた。

「近衛前久様より、

 正木家の娘・桜殿をお招きしたいとのこと」

桜は思わず父を見上げた。

(……なんで、私?)

胸の奥で、

脳内戦略会議がざわつく。

(味噌? 醤油? 椎茸?)

(いや、今回は椎茸は出していない)

(……人?)

理由が分からない。

それが、

一番怖かった。

京、近衛邸

京の空気は、

どこか違っていた。

道は整い、

言葉は柔らかく、

衣擦れの音すら静か。

「……ここが、都」

桜は小さく呟いた。

そのまま案内された奥庭で、

一人の少女が立っていた。

雪姫

年の頃は、九つほど。

白く整った顔立ち。

伏し目がちで、

動き一つ一つが丁寧。

豪華な着物は、

“見せるため”ではなく、

“生まれながらに身にまとうもの”。

(……あ、これは)

(“本物のお姫様”だ)

桜は、思わず姿勢を正した。

最初の言葉

「はじめまして」

鈴を転がすような声。

「わたくし、雪と申します」

桜は慌てて頭を下げる。

「正木桜です」

「遠いところ、よう来てくれはりましたな」

挿絵(By みてみん)

――その瞬間。

桜は、顔を上げた。

(……京言葉、じゃない?)

一転する距離感

「堅うせんでええよ」

雪姫は、ふっと微笑んだ。

「うちはな、

 堅苦しい話、苦手やねん」

「ここでは“雪”でええ」

桜は、目を丸くする。

「……え?」

「桜ちゃん、やろ?」

「うち、噂は聞いてるで」

「畑、銭、味噌、醤油」

「子どもやのに、よう考えるって」

おしとやかな佇まいのまま、

言葉だけが、驚くほど近い。

(……この人)

(“壁”を作らない人だ)

桜の戸惑い

「……あの」

「近衛様が、私を呼んだ理由は……」

雪は一瞬だけ視線を逸らし、

それから、にこりと笑った。

「それはな」

「あとで話す」

「今は――」

桜の手を、そっと取る。

「京を、見よ?」

その仕草は、

まるで長年の友のようだった。

桜の心

(怖い)

(でも――)

(この人は、敵じゃない)

脳内戦略会議が、

珍しく静まる。

代わりに浮かんだのは、

純粋な感情だった。

「……はい」

そう答えた桜の声は、

少しだけ弾んでいた。

この出会いが、

のちに「朝廷」と「正木桜」を

静かにつなぐ糸になることを、

この時はまだ誰も知らない

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