第36話 荒銭を集める理由
「……なんで、そんな欠けた銭を集めるんだ?」
その問いは、
正木家の土間で、何度も繰り返された。
黒ずんだ銭。
縁が欠け、文字も擦り切れた荒銭。
本来なら、
誰も進んで受け取らない代物だ。
大人たちの反応
「それじゃあ買い物にも使えねえ」 「溶かすって……銭を壊すなんて縁起が悪い」 「怒られやしないか?」
不安と反発が混じる声。
正木家に集まった者たちは、
桜の前で首をかしげていた。
桜は、背伸びもせず、
ただ静かに答える。
「使えないから、集めるんです」
「使えないものなら、惜しくないでしょう?」
その言い方が、
余計に場をざわつかせた。
脳内戦略会議、開幕
(反発、想定内)
(銭=壊してはいけない、という感覚が強すぎる)
(でも、だからこそ――)
桜の頭の中では、
もう一人の“自分”が机を叩いている。
(理由を先に言うな)
(結果を見せろ)
(戦国時代は、理屈より“現物”)
「……桜?」
父・綱胤
様子をうかがうように声をかける。
桜の説明(戦国翻訳版)
「この銭、重さがばらばらです」
桜は、手のひらに荒銭をいくつか並べた。
「同じ“銭”なのに、
軽いもの、重いものがある」
「……確かに」
「重い銭は、
溶かすと“残る”ものが多いんです」
あえて、
金とも銀とも言わない。
「残る?」
「はい。
灰にならず、形を変えて残るもの」
その言い方に、
数人の目が変わった。
好奇心が芽を出す
「……それが、何になる?」
「銭より、価値のあるものです」
一瞬、
沈黙。
次に広がったのは、
小さなどよめきだった。
(きた)
桜の脳内で、
もう一人の自分が頷く。
(人は“損しない”と分かった瞬間、動く)
反発の声
それでも、
納得しない声は残る。
「そんな話、聞いたことがない」 「子どもの考えだ」 「火遊びになる」
桜は否定しない。
「だから、試します」
「荒銭だけで」
「使える銭には、触りません」
――逃げ道を用意する。
――被害を限定する。
脳内会議、完璧。
父の一言
しばらく黙っていた正木綱胤が、
静かに口を開いた。
「……集めるだけなら、構わん」
「溶かすのは、私の目の届くところでやれ」
その言葉に、
場の空気が少し緩む。
桜は小さく頷いた。
「ありがとうございます」
夜、ひとりの会議
夜。
布団の中。
桜は天井を見つめながら、
頭の中で駒を並べる。
(荒銭回収)
(反発は最初だけ)
(好奇心を持った者を味方に)
(失敗しても、学びは残る)
(成功すれば――次の扉が開く)
「……忙しいな」
そう呟きながら、
桜は目を閉じた。
この小さな実験が、
後に“流れ”を変えることを、
まだ誰も知らない。
荒銭は集まり始めた。
反発と好奇心を抱えたまま。




