第35話 次なる改革と構想
城下を歩くと、
以前とは明らかに違う音がした。
荷車の軋む音。
呼び込みの声。
子どもたちの笑い声。
正木領内は、確かに活気づいていた。
畑は整い、
作物は安定し、
味噌と醤油は日常になり、
椎茸は「特別な品」として静かに流通している。
――うまくいっている。
けれど。
「……次がないと、止まる」
桜は、縁側に座りながら空を見上げた。
もう七つの春を越えたが、
頭の中は相変わらず忙しい。
成長の先にある“壁”
物が増えると、
人が増える。
人が増えると、
金が動く。
だが、今の正木領は――
“銭の量”そのものが足りない。
米。
物々交換。
銭。
どれも限界がある。
「流れはできた。
でも、器が小さい」
桜は、帳面の端に意味のない丸を描いた。
脳内会議、再開
(貨幣流通量が足りない)
(鋳造は無理)
(外から引き込むにも限界がある)
そこで、
ふと記憶の底から浮かんだ。
――前世で読んだ、小説。
「荒銭から、金と銀を抜く話……」
確か、
質の悪い銭。
割れやすく、黒ずんだ銭。
そこから、
わずかだが金や銀を取り出す話。
(冶金)
(精錬)
(抽出)
脳内では難しい言葉が飛び交う。
「……そのまま言っても、通じない」
桜は苦笑した。
戦国向けに“翻訳”する
桜は考える。
・銭を砕く
・火を使う
・灰や石を使う
・重いものが下に、軽いものが上に
「“試しに溶かしてみる”でいい」
理屈は後でいい。
結果が出れば、説明は追いつく。
「荒銭は、誰も惜しまない」
失敗しても問題ない。
成功すれば――
「……お金を、作れる」
それは、
戦をせずに力を持つ方法だった。
桜の結論
桜は、帳面を閉じた。
「畑は、人を養う」
「食は、心を掴む」
「でも――
次は“流通そのもの”」
金と銀。
それは、
目に見える力。
そして、
誰もが欲しがる力。
「試す価値は、あるよね」
小さな声で、
桜はそう呟いた。
その目は、
七歳の少女のものではなかった。
静かに、
だが確実に。
正木領は、
“次の段階”へ踏み出そうとしていた。




