第四話 棚は完成、畑は未完成、思考は止まらない
「父上! 母上!」
桜は両腕を振り上げて囲炉裏の間に飛び込んだ。
5歳の身体は軽い。勢いは重い。
「また妙なテンションで入ってきたな」
父・綱胤が苦笑する。
椿は桜の額に手を当てた。
「熱は…もう平気ね。棚も平気だったのよね?」
「はい。四角い棚、完成しました」
「爆発は?」
「しません」
「だからそこじゃない!」
玄庵の成果報告(家族会話メイン)
榊原玄庵が座布団に正座し、手ぬぐいで汗を拭きながら言う。
「姫さまの“普通に四角い棚”、作り終えた。
風通しの穴も入れた。材は杉。補強は鉄釘。丈夫だ」
「穴って?」
虎千代が質問する。
「空気が抜ける道です。食べ物が息できる」
「たべもの いき できる?」
「比喩!」
「便利な比喩!」
椿がさらに重ねてくる。
「比喩じゃなくて夢じゃないのね?」
「夢で設計、現実で実装」
「実装!?」
言ってしまった…でももう止まらない。
父が真顔になる。
「桜。棚は分かった。
で、次は何をしたい」
桜は黙った。
そして始まる。
脳内戦略会議(第4回)
棚は物流と保存の基礎。→ 成功
次は農地改革。→ 時期は? → 今
信用は? → 家族バフでギリ突破可
言い方は? → 5歳らしく → 無理
対策は? → ちょっと可愛く言え
桜は小さく咳払いをして言った。
「……畑、変えたいです」
「ほう?」
父の眉が動く。
「土を、なんかこう…栄養ある感じにして、米がたくさん育つ感じとか」
「感じとか言っておる!」
「まだLv2なので!」
椿が肩を震わせている。
「米がたくさん育つのは良いけど…栄養って?」
「肥料のことです」
「ひりょう?」
「食べ物の余りとか、魚の粉とか、土に混ぜて育てる材料」
「干鰯を砕くのとは違うのか?」
「それの進化版です」
「進化って言うな!」
家臣・土豪との会話で状況把握
そこへ、里見家の若い家臣・**神崎次郎(20歳)**が入ってきた。
刀ではなく帳面を持っている。
「桜さま、聞きましたぞ。棚を作ったとか」
「作りました。次は畑です」
「はたけ?」
次郎は困惑しつつ、桜の真剣な目に押される。
「今の安房の畑は――」
砂地が多く水が抜けすぎる
風は強いが塩気で作物が弱る
米の収穫が年によって乱高下
寺の農地と土豪の農地で管理がバラバラ
次郎は帳面を読み上げるように説明した。
桜は頷いた。
「……つまり土と制度の問題ですね」
「制度?」
「畑ごとの管理ルール」
「5歳でルールを作る気か?」
「徐々にです」
「それは言えるのか!」
母との二人会話(思考の吐露と家族ドラマ)
椿が桜の隣に座った。
「桜。あなた、何かを変えたい気持ちは本物ね」
「本物です」
「でもこの時代で変えるって大変よ?」
「分かってます」
「分かってるのにやるの?」
「分かってるからやるの」
椿は笑った。
父の理解と覚悟
綱胤が立ち上がり、外の海を見て言った。
「……房総は海で生きる。だが海だけでは腹は満ちぬ。
米が強ければ、人も強くなる。ならば――」
桜を見る。
「畑からだな?」
「はい。畑からです」
「……よし。だが人選がまた必要になるな」
桜は微笑んだ。
「次は…畑をよく知る人」
「具体的じゃないか!」
「畑は知識より現場なので!」
虎千代が拳を握って言う。
「ねぇね、たな つくった! つぎ たんぼ!」
「たんぼじゃない、畑!」
「はたけ つくったら たんぼ!」
「合ってるけど合ってない!」
桜は縁側から空と海を同時に見上げた。
棚は完成。畑はこれから。制度もこれから。人もこれから。私の思考は止まらない。
「……父上」
「なんじゃ」
「この時代で一番強い武器って」
父が笑う。
「刀か?」
桜は言った。
「人です」
「……知っておる」
「知ってるのに言うのね!」




