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『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


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第三話 改革の種と、職人との初対面

昼前。まだ熱の余韻が残る桜は、縁側に座って庭を眺めていた。

潮の香りが薄く混ざる風。冬でも湿り気を帯びた土。房総の気候だ。

「桜」

背後からの声。父・綱胤が戻ってきた。

その後ろには、大柄な男が一人。日に焼けた肌、厚い掌、木屑の匂い。職人だ。

「紹介する。**細工師さいくし・榊原 玄庵げんあん**殿じゃ。

 船大工の技も、鍛冶の心得もある」

「榊原…」

「なんじゃ、また知らぬ名か?」

「知ってる名です。でもこの榊原は徳川じゃない方の榊原」

「とくがわ? なんじゃそれは」

「便利な夢の話です」

「また便利か!」

便利です。検索できないので。

玄庵は腕を組んで桜を見下ろした。だが声は落ち着いている。

「姫さまが棚を作りたいと聞いたが――本当か?」

「はい。本当です」

「どんな棚だ」

桜は少し黙った。

頭の中で会議が始まる。

直球で言うな。比喩も控えめ。幼女でも伝わる仕様で。

「えっと……風がよく通って、たくさん干せて、丈夫で、普通に四角いやつ」

「普通に四角い棚?」

「はい、普通に四角い棚」

「……ほう」

玄庵の眉がわずかに動いた。

「その“普通”は、誰でも作れる普通か?」

「誰でも作れるけど、誰も作ってない普通」

「哲学か?」

「5歳です」

「知ってるわ!」

母・椿が後ろから補足する。

「姫は昨日からずっと四角い棚の話ばかりでね」

「ばかりじゃないです、全部の入り口が棚なんです」

「入り口?」

「はい。物流、保存、効率、生産、すべてのゲートウェイ」

「ぶつりゅう?」

「物を運ぶ流れです」

「5歳でそこまで言えるのか?」

「夢の話です」

「便利すぎる!」

父が咳払いする。

「桜。玄庵殿は腕の立つ細工師。まずは失礼のないようにせよ」

「はい。玄庵さま、よろしくお願いします。棚は爆発しません」

「そこじゃない!」

脳内戦略会議(第三回)

議題:職人の信用をどう上げる? → まず具体より目的で揺さぶる

注意:5歳の口から改革・薬・戸籍はまだ早い

でも言いたい → 次話でちら見せだけにしろ

桜はふと父の袖を引いた。

「父上」

「今度はなんじゃ」

「畑を耕せる人も、いつか必要になると思うんです」

「畑?」

「はい、畑」

「棚の次は畑か?」

「次も畑、その次も畑、その次は畑以外」

「以外ってなんじゃ」

「薬とか、粉とか、香りのする白いやつとか」

「具体的すぎる!」

椿が吹き出した。

白粉おしろいのこと?」

「それもあります」

「それ“も”って何よ!」

言いすぎた!でも母上ナイス補完!

父は呆れつつも、どこか目が鋭い。

「……桜。お前、民の暮らしを良くする気か?」

桜はまっすぐ答えた。

「はい。人が元気になって、食べ物が長持ちして、きれいで健康な感じとか作りたいです」

「感じとか言うなと言ったであろう!」

「すみません、でもまだ感じしか言えません!」

玄庵が初めて口元を緩めた。

「……姫さま。四角い棚は作ってやる。だが――」

「だが?」

「その先の“感じ”を形にするなら、俺だけじゃ足りん。仲間がいる」

桜の目が輝いた。

「紹介できます?」

「紹介はできるが、今は棚を作る段階じゃろう?」

「はい、今は棚」

父はまたため息をついた。

「……まあ良い。棚から始めよ。榊原殿、頼めるか?」

「任せろ」

父と娘の二人だけの時間

玄庵が作業場へ向かった後、父と桜だけが残った。

「桜」

「はい父上」

「お前の頭の中、戦のことより民のことが多いな」

桜は笑った。

「戦はあとで。まず基盤が大事なので」

「基盤?」

「人、食、健康、制度」

「せいど?」

「ルールです」

「5歳でルールを作る気か?」

「徐々にです」

「便利じゃない言い方を覚えたな!」

レベルアップです父上。

桜は空を見上げた。

戦国の空は知らない。でもやることは知っている。

さあ、ここからが本番。棚が完成したら畑。畑の次は薬。薬の次は制度。制度の次は商品。商品は海路。海路の次は房総改革。

「……桜?」

「はい?」

「今、また脳内で喋っておるな?」

「はい。会議です」

「……ならばよい。飯を食って次の会議に備えよ」

「はい父上」

「普通に返事できるのが逆に怖い!」

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