第26話 揺れる商人、揺れない畑
商いは、風に似ている。
強く吹けば儲かり、
止まれば飢える。
だが――
畑は、揺れない。
■ 商人の焦り
城下の外れ、
仮宿に泊まる商人たちの間に、
微妙な空気が流れていた。
「正木は、儲けを逃している」 「今のうちに押さえねば、他が来る」
「だが……」 「強く出ると、向こうは引く」
皆、迷っている。
儲かる匂いは確かにある。
だが、掴もうとすると、
指の間からすり抜ける。
それが、今の正木領だった。
■ 畑の朝
一方、畑。
桜は土に膝をつき、
鍬を持つ農民の動きを見ていた。
「この畝、少し高いね」
「雨の時、流れやすいからな」
「じゃあ、
端に溝を足しましょう」
農民は目を丸くする。
「それで、変わるか?」
桜は頷く。
「水が溜まらなければ、
根が息をします」
専門用語は使わない。
でも、理屈は隠さない。
農民は、少し考えてから言った。
「やってみるか」
畑は、揺れない。
理由は簡単だ。
試しても、明日が壊れないから。
■ 家族との昼餉
昼、屋敷。
父が言う。
「商人が、値の話を始めている」
桜は味噌汁をすすりながら答える。
「畑が先です」
「……相変わらずだな」
「畑が安定しないと、
商いは暴れます」
母がふっと笑う。
「この子、
商人より土を信じているわ」
桜は少し首を傾げた。
「土は、嘘をつかないです」
■ 脳内戦略会議
(商人は、今揺れている)
(だから、こちらは揺れない)
(畑・水・人)
(この三つが安定すれば、
商いは後からついてくる)
桜の中で、
優先順位ははっきりしていた。
金 → ×
信用 → △
再現性 → ◎
■ 噂の変化
数日後。
城下で、こんな噂が広がる。
「正木は、値切らせない」 「でも、困らせない」
「畑が強いから、
急がないらしい」
商人たちは気づき始める。
――この土地では、
――急ぐ者が損をする。
■ 夕暮れの畑
夕日が畝を照らす。
桜は、静かに畑を見渡した。
芽はまだ小さい。
だが、根は深く張り始めている。
(揺れないものを作れば、
揺れるものは寄ってくる)
畑は今日も黙っている。
それが、
正木領の一番の強さだった。




