第24話 流れを作るということ
――城下と浜の変化――**
変化というものは、
大きな音を立てて始まるものではない。
朝の城下。
浜へ続く道。
そこにあるのは、昨日と同じ景色のはずだった。
けれど――
人の動きだけが、少し違っていた。
■ 城下に生まれた「間」
城下の市では、
魚を並べる者の手が止まり、
野菜を売る者が立ち話をする。
「味噌を合わせるなら、この魚がいいらしい」 「醤油を使うと、干し方を変えたほうが持ちがいい」
そんな言葉が、
当たり前のように交わされていた。
誰かが命じたわけではない。
だが、人は知ってしまったのだ。
工夫すれば、価値が増える
考えれば、売り方が変わる
それだけで、人の動きは変わる。
■ 浜の空気
浜では、漁師たちが網を直しながら話していた。
「内臓の処理、もう少し早くできないか」 「塩の量、昨日の配分は良かったな」
以前なら、
獲って、売って、終わり。
今は違う。
どうすれば傷みにくいか。
どうすれば、城下まで良い状態で運べるか。
その先に、
調味料と料理が待っている
という意識がある。
桜は浜に立ち、
その様子を黙って見ていた。
(流れは、もうできている)
■ 脳内戦略会議
桜の中で、静かな会議が始まる。
(制度は押し付けない)
(命令もしない)
(ただ、繋げる)
畑。
浜。
城下。
料理番。
それぞれが孤立していたものを、
「次の工程」を想像させるだけでいい。
すると、人は勝手に動き出す。
(流れを作るって、こういうこと)
■ 家族との会話
夕刻、屋敷。
父が言う。
「最近、城下が落ち着いている」
母は頷く。
「争いが減ったわね。
皆、自分のことで忙しいもの」
桜は、味噌汁を飲みながら小さく言った。
「忙しいのは、いいことです」
「先のことを考える余裕が、あるってことだから」
父は、少し驚いた顔で桜を見る。
「……お前は、どこまで見ている?」
桜は笑わなかった。
「今、見えている分だけです」
それで十分だった。
■ 流れは止めない
桜は帳面に一行だけ書く。
――「流れは、止めない。整えるだけ」
堤を築くのではない。
水路を作るだけ。
水は、自分で行き先を選ぶ。
城下と浜。
その間を行き交う人と物と考え。
正木領は、
知らぬ間に「考える土地」へと変わり始めていた。
それはまだ、
誰にもはっきりとは見えない変化。
だが、
確実に――
流れは、できていた。




