第21話 里見義堯、桜の料理をまなと食す
城の一室。
昼の膳とは違う、小さな卓。
里見義堯の前には、簡素な器が並んでいた。
その向かい――正座しているのは、まな姫。
「父上」
「今日は、ほんとにこれだけ?」
まなは、じっと膳を見つめている。
「不満か?」
「ううん!」
「でもね」
まなは鼻をひくりと動かした。
「いい匂い」
桜、控える
少し離れた場所に、桜は控えていた。
(よし)
(量は少なめ)
(味は、分かりやすく)
(姫様が先に食べる流れ……想定通り)
頭の中で、脳内会議が忙しい。
ひと口目は、姫
「まな」
「先に食べてみなさい」
「はーい!」
まなは箸を取り、焼き魚をひと口。
「……!」
ぱちっと目を見開く。
「父上!」
「これ、しょっぱくない!」
「魚、やわらかい!」
義堯は、眉をわずかに上げた。
義堯、味を見る
義堯も箸を取る。
一口。
……少し間を置く。
二口目で、息を吐いた。
「なるほど」
「これは……」
桜は、無言で頭を下げる。
問い
「桜と申したな」
「はい」
「なぜ、この味にした」
「濃くもできたろう」
桜は、まっすぐ答える。
「毎日、食べるからです」
「殿も、姫様も」
「毎日、同じ膳に向かいます」
義堯の視線が、わずかに鋭くなる。
姫の一言
「ねえ、父上」
まなが口を挟む。
「これね」
「いっぱい食べても」
「眠くならない!」
義堯は、思わず笑った。
「それは、大事だな」
桜の説明
「味噌と醤油は」
「豆と塩と、時間です」
「時間を、味にします」
「だから、急ぎません」
義堯は、椀を見つめたまま言う。
「……戦より、厄介だ」
「時間は、奪えぬ」
父と姫
食事が終わる頃。
まなは、満足そうに頬を緩めた。
「桜!」
「また、一緒に食べたい!」
桜は、深く頭を下げる。
「ありがたき幸せです」
義堯は、その様子を静かに見ていた。
殿の結論
「桜」
「そなたのすること」
「急ぐな」
「だが、止まるな」
桜の胸が、どくんと鳴る。
「まな」
「この味、覚えておけ」
「国はな」
「こうして、守ることもある」
「うん!」
小さな勝利
その日。
桜は、何かを得た。
褒美でも、約束でもない。
ただ――
理解されたという感触。
(よし)
(次は、商人だ)
城の外では、
すでに動き出した影があった。




