第18話 七つの春、椎茸ひらく
桜は、七つになった。
「おめでとう」
そう言われるたび、桜は小さく頭を下げる。
(七歳)
(この体で過ごす時間も、
もう前世より“現実”になった)
朝の空気は、少しだけ暖かい。
春が、来ていた。
七年目の裏山
「……いつも通り」
裏山の小屋。
桜は、毎朝と変わらぬ手順で原木を見る。
湿り。
匂い。
木の割れ。
(脳内会議)
――期待するな
――確認だけ
――成功は、静かに迎えるもの
「……あ」
足が止まる。
「……?」
原木の側面。
ほんのわずか、盛り上がり。
「……」
桜は、しゃがみ込む。
「……出てる?」
小さな、茶色。
(違う。気のせいじゃない)
「……椎茸」
声が、かすれた。
仲間を呼ぶ
「幸恵」
「なに?」
「静かに、来て」
幸恵、香織、野乃、知子。
秘密の小屋に、いつもの顔が揃う。
「……これ」
桜が指差す。
「……!」
知子が目を見開く。
「生えてる……」
「ほんとだ」
香織が、そっと息を吐いた。
誰も、すぐには喜ばなかった。
失敗が、あまりにも多かったから。
触れない選択
「触っていい?」
野乃が聞く。
「まだ」
桜は首を振る。
「今日は、見るだけ」
(脳内会議)
――成功は、確認してから
――感情は、後
「昨日より……」
知子が呟く。
「少し、大きい」
「うん」
桜は帳面を開いた。
七歳の手、七年分の知識
数日後。
傘は開き、香りが立つ。
「……椎茸だ」
知子が、今度ははっきり言った。
桜は原木に手を当てる。
「穴の深さ」
「原木の種類」
「詰めたもの」
「全部、少しずつ変えた」
幸恵が笑う。
「やっとだね」
「……うん」
秘密はまだ、秘密
「これ、売れる?」
香織が聞く。
「……まだ」
桜は即答した。
「数が少ない」
「それに」
桜は皆を見る。
「内緒」
全員、黙って頷いた。
七つの春
その夜。
桜は帳面に向かう。
字は、少しだけ大きく、整っていた。
(七つの春)
(ようやく、芽が出た)
裏山の闇の中。
原木に、静かな命が息づく。
それはまだ、誰にも知られない。




