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『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


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第17話 特産品――大豆、味噌と醤油、そして石鹸

「……よし、脳内戦略会議、開会」

(議題その一。

“大豆は万能である”

以上)

「……以上じゃない、ちゃんと考えなさい私」

正木桜、五歳。

今日も裏山の秘密の小屋で、腕を組みながら唸っていた。

「桜ー! また難しい顔してるー!」

「眉間にしわ寄ってるよ?」

幸恵と知子が、原木の横からひょこっと顔を出す。

香織と野乃は、すでに大豆の入った籠を運んでいた。

「今日は“豆”なの?」

香織が首を傾げる。

「うん、豆。正確には――」

(発酵。

タンパク質分解。

微生物の力を借りた保存食文化)

「……長くなるから、簡単に言うね」

桜は一度深呼吸した。

「この豆をね、すぐ食べないで、時間をかけて育てるの」

「え? 豆を育てるの?」

「畑じゃなくて?」

「くさるんじゃない?」

一斉に飛んでくる素朴な疑問。

(そう、それが普通の反応。

だからこそ、説明は“感覚”で)

「例えばね」

桜は地面に棒で丸を描く。

「魚、干すと長く食べられるでしょ?」

「うん!」

「野菜も、漬けると日持ちするよね」

「する!」

「豆もね、“育て直す”と、とっても力持ちになるの」

「力持ち?」

「身体にもいいし、長く使えて、売れる」

一瞬、沈黙。

「……売れる?」

野乃の目がきらっと光る。

「うん。正木の特産品になる」

(来た。食いついた)

味噌と醤油のはじまり

「まずはこれ」

桜は木の桶を指差した。

「豆を煮て、つぶして、塩を入れて――寝かせる」

「寝かせる?」

「いっぱい」

「どれくらい?」

「……一年とか」

「ええええ!?」

一斉に声が上がる。

(そう、一年。

でも戦国の時間感覚なら、十分“待てる”)

「でもね」

桜はにこっと笑う。

「そのあいだ、ずーっと使える」

「ちょっとずつ?」

「そう。汁に入れても、焼いてもいい」

「……それ、すごくない?」

香織が真剣な顔で言った。

「うち、味が薄い日もあるから……」

「でしょ?」

桜は小さく拳を握った。

(生活の困りごとに直結させる。

これが一番伝わる)

「これを“味噌”って呼ぶ」

「みそ……」

「じゃあ、これは?」

次に桜が指したのは、別の小瓶。

「同じ豆からできる、黒い汁」

「それは……?」

「しょっぱい」

「……おいしい?」

「とっても」

「それ、欲しい!」

即答だった。

石鹸という異物

「で、最後」

桜は一瞬、言葉を選ぶ。

(これは一番難しい。

概念がまだ存在しない)

「身体とか、手を洗うやつ」

「水?」

「灰?」

「米ぬか?」

「それをね、もっとちゃんと汚れが落ちるようにする」

「どうやって?」

「豆の油を使う」

「油……食べるやつ?」

「食べない」

「え?」

「食べないけど、大事」

(石鹸=界面活性剤、は絶対言えない)

「泡が立つと、汚れが逃げる」

「逃げる?」

「うん。追い出す」

「……面白い」

知子がくすっと笑った。

「桜、たまに変なこと言うけど」

「うん?」

「だいたい、あとで“すごい”ってなる」

桜は一瞬、言葉に詰まった。

(五歳の私に、過分な評価……)

「……失敗するかもよ?」

「いいよ」

幸恵が即答する。

「失敗しても、またやればいい」

「うん!」

「秘密だし!」

(ああ、もう)

「じゃあ――」

桜は小さく、でも確かに宣言した。

「正木特産品、第二弾」

「大豆計画、始めます」

脳内戦略会議・追記

(味噌・醤油=保存食+調味料

石鹸=衛生+差別化商品

子ども主導=目立たない

失敗前提=疑われにくい)

(結論)

また一歩、前進。

桜は桶の豆を見つめながら、静かに笑った。

(戦はしない。

でも――この国は、確実に変えていく)

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