第16話 「内緒の輪、名もなき仲間たち」
「内緒の輪、名もなき仲間たち」
裏山の朽ちた原木のそば。
正木桜の周りには、いつの間にか“いつもの顔ぶれ”が集まっていた。
幸恵
城下の下働きの娘で、手先が器用。紐を結ぶのも、蓋を閉めるのも一番早い。
知子
家臣の子で、力仕事担当。年の割に無口だが、言われたことは黙々とこなす。
香織
呉服問屋の下働き。布の扱いで培った丁寧さがあり、変化にすぐ気づく。
野乃
城下の家臣の末娘。草木に詳しく、匂いや湿り気に敏感。
桜は彼女たちを“仲間”とは呼ばない。
あくまで「一緒に遊んでいるだけ」。
(組織化すると歪む。今は自発性だけでいい)
脳内会議は、今日も冷静だった。
朽ちた原木には、いくつもの小さな穴。
中に詰められているのは、米糠、煮た麦、乾かした草、寒天もどき。
「これ、昨日より匂いが違う」
野乃が言うと、香織が顔を近づける。
「ほんと……ちょっと甘い?」
幸恵は、小さな板に印を刻む。
「こっちは三日前、こっちは昨日」
文字ではない、子どもだけの“印”。
(ログ管理、成功)
桜は内心で頷いた。
知子は、黙って原木を持ち上げる。
「重くなった」
それだけの一言に、桜は目を見開く。
(含水率が変わった可能性)
だが口に出る言葉は、別のもの。
「木が、お腹いっぱいなのかもね」
皆は笑った。
夕暮れが近づくと、誰かが言う。
「内緒だよね?」
桜は、少しだけ考えてから頷く。
「うん。これは、みんなの遊びだから」
その言葉で十分だった。
結果は、まだ出ない。
椎茸は顔を出さない。
失敗の方が、圧倒的に多い。
それでも――
・匂いが変わった原木
・湿り方が違う場所
・腐らずに持ちこたえている穴
小さな“違い”が、確かに積み重なっている。
(再現性の芽)
桜の脳内会議が、初めてざわめいた。
城下では誰も知らない。
五歳の当主と、名もなき子どもたちが、
正木領の未来を、土と木の中で育てていることを。
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