第15話 「芽吹きの兆し、特産への道」
正木桜は、裏山から城下を見下ろしながら、静かに息を吐いた。
(いきなり完成形を求めるから失敗する。現代でもR&Dは段階評価…)
脳内会議は今日も騒がしい。だが、それを誰にも悟らせないのが、五歳の桜の処世術だった。
椎茸の原木は、まだ沈黙したまま。
穴を開け、様々な原料を詰め、湿度を変え、置き場を変えたが、目に見える成果はない。
それでも桜は「失敗」とは呼ばなかった。
「これは……環境データ不足、かな」
意味不明な言葉を飲み込み、
村の大人たちにはこう言い換える。
「木にも、好き嫌いがあるみたい」
それだけで、皆は納得した。
椎茸だけに固執はしない。
桜は同世代の子どもたちと一緒に、村と山を歩く。
・乾燥させると香りが残る草
・虫が寄りつかない葉
・保存すると味が変わる木の実
・煮ると色が変わる樹皮
「売れるかどうか」ではなく
「続けられるかどうか」を基準に、桜は一つ一つ記憶していく。
(スケールしない技術は意味がない)
(でも、ここでは“無理をしない”が正解)
また脳内会議が始まる。
城下では、商人たちが増えていた。
以前よりも作物の質が安定し、量も揃ってきたからだ。
「正木の畑は、外れが少ない」
その評判が、ゆっくりと広がっている。
台帳制度も、今では当たり前の仕組みとなり、
誰が、どこで、何を作っているかが明確になった。
桜はそれを、少し離れた場所から見ている。
(制度が根付くと、人は勝手に動き出す)
(あとは、芽を摘まないこと)
裏山の原木の前で、桜はそっと手を合わせた。
「今年は、出なくてもいい」
そう呟く声は、どこか穏やかだった。
失敗続きでも、
村は前に進んでいる。
子どもたちは学び、
大人たちは考え始めている。
特産品は、まだ“形”になっていない。
だが――確実に“兆し”はあった。
桜の脳内会議が、静かに一致する。
「この領地は、伸びる」
それを誰にも言わず、
今日も五歳の当主は、少しだけ前へ進むのだった。




