閑話 桜の続脳内戦略会議
行き詰まる思考
――桜、限界を知る
……回らない。
いつもなら、静かに形を結ぶはずの思考が、
今夜は同じ場所をぐるぐると巡るだけだった。
抑止。
制度。
商い。
思想。
すべて、考えた。
積み上げた。
形にもなっている。
それなのに――
この先が、見えない。
桜は、膝を抱えた。
「……ここまで、やったよね」
自分に言い聞かせるように、そう呟く。
里見は、もう弱小ではない。
守る術も、選択肢も、持っている。
それでも、心の奥で声がする。
それでいいの?
それ以上、踏み込まなくていいの?
歴史の流れ。
戦国という大河。
自分一人が、堰き止められるものではない。
「だったら……」
考えが、危うい方向へ傾く。
このまま、歴史に任せてしまえばいい。
私は、居なくなればいい。
そうすれば、
私が原因で歪むことも、
私が標的になることも、なくなる。
……でも。
「それは、逃げじゃない?」
胸が、少し痛んだ。
逆の考えも浮かぶ。
いっそ、行くところまで行く?
誰にも文句を言わせないほど、形を作ってしまう?
完全な制度。
完全な抑止。
完全な里見。
でも――
それは、誰のため?
里見のため?
民のため?
それとも、私自身の不安を消すため?
答えは出ない。
桜は、天井を見つめた。
自分が感じているのは、恐怖ではない。
慢心でもない。
限界だ。
一人で考えることの、限界。
未来を知っているがゆえの、孤独。
「……全部、背負う必要はないのかな」
その言葉は、誰に聞かせるでもなく、
ただ空気に溶けた。
外では、春の虫が鳴いている。
港は動き、
工房は火を落とし、
人々は眠りについている。
里見は、もう桜一人のものではない。
それが救いであり、
同時に、手放す怖さでもあった。
「答えは……今じゃない」
そう結論づけるしかなかった。
進むのか。
委ねるのか。
一度、すべてを賭けるのか。
悩みは尽きない。
だが――
考えられなくなったことを、考えられた。
それだけで、今夜は十分だと、
桜は自分に言い聞かせた。
小さく息を吐き、
目を閉じる。
行き詰まりは、終わりではない。
それはきっと――
次の段階へ進む前の、静止なのだから。




