閑話 桜の脳内戦略会議
……静かだ。
夜。
灯りを落とした部屋。
潮の音が、遠くで規則正しく続いている。
思考開始。
【第一議題:今後の戦略 ―― 戦は起こるか】
起こる可能性は常にある。
「起こさない」ではなく「起こしにくくする」。
✔ 攻めると損
✔ 守ると得
✔ 巻き込まれると面倒
今の里見は、この三点を満たしつつある。
ただし――
思想は数値化できない。
武力・経済・医療は整ってきた。
だが、人の心は裏切る。
→ 対策:
・表立った弾圧はしない
・言論には言葉で返す
・「責任」をキーワードに据える
まな姫の宣言は有効。
短期的には敵の手を縛り、
長期的には民の選択基準を固定する。
結論:
戦は抑止可能だが、ゼロにはならない。
【第二議題:領地の発展 ―― どこまで進めるか】
進めすぎは危険。
遅すぎは衰退。
今は「一点突破」ではなく「面で育てる段階」。
✔ ガラス:
→ 工芸・医療・光学
→ 外に出す量を制限。価値を落とさない。
✔ 医薬:
→ 内需優先。
→ 他領への供給は“災害・疫病時のみ”。
✔ 造船:
→ 港は軍事色を出さない。
→ 商港としての顔を前に。
→ 共通原則:
“便利”ではなく“必要”にする。
【第三議題:公家との付き合い方 ―― 距離と価値】
近づきすぎると、利用される。
離れすぎると、切り捨てられる。
最適距離:
「困った時に思い出される存在」
✔ 金は出しすぎない
✔ 物で支える(清酒・硝子・医)
✔ 顔を立てるが、決定権は渡さない
近衛前久:
・味方でも敵でもない
・“橋”として扱う
主上:
・直接は触れない
・環境改善という形で支援
結論:
公家は盾であり、矛ではない。
【第四議題:近隣諸国の動静 ―― 誰が動くか】
北条:
・短期は静観
・長期は必ず試す
→ 情報戦継続。挑発は避ける。
中小武家:
・流入予備軍
・制度を真似しに来る
→ 人は受け入れ、権限は渡さない。
思想勢力:
・最も危険
・正義を語る
→ 暴かず、疲弊させる。
伊賀・百地:
・信頼は置ける
・だが永続ではない
→ 依存しない設計を続ける。
【第五議題:最大のリスク】
……私自身。
象徴になりすぎること。
消えた時、崩れる構造。
→ 対策:
・制度を残す
・人を育てる
・名前に依存させない
私がいなくても、回る里見。
それが完成形。
最終まとめ:
戦わないために、
強くなりすぎない。
守るために、
弱く見せすぎない。
そして――
選ばせる。
「攻める」
「無視する」
「関わる」
その中で、
一番得なのが“里見と関わること”になるように。
……よし。
桜は、静かに息を吐く。
まだ十二才。
だが、もう逃げる道は考え終わっている。
次に考えるべきは――
自分が消えた“後”の里見。
それは、もう少し先の議題だ。




