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『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


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131/142

131話 まな姫が公の場で“揺るがぬ宣言”をする

春とは名ばかりの、冷たい風が吹く朝だった。

評定の間には、里見家の重臣だけでなく、近隣領主の使者、寺社勢力の代表、そして京から流れてきた学者崩れまでが顔を揃えていた。

空気が、重い。

誰もが知っている。

最近、じわじわと広まっている**「新しい考え」**――

「武士の支配は時代遅れ」「民こそが国の主」

その思想が、商人や若い下級武士の間で囁かれ始めていることを。

評定が一通り終わり、最後に「意見を述べたい者は」と声がかかった、その瞬間。

すっと、一人の女性が立ち上がった。

白を基調とした装束。派手さはない。

だが、背筋は一本の槍のように真っ直ぐだった。

まな姫。

「――恐れながら、ひと言」

ざわ、と空気が揺れる。

若い。

しかも女。

軽く見る視線が、確かにあった。

まな姫は、それをすべて受け止めた上で、一歩前に出た。

「近頃、里見の地に“新しい正しさ”が流れ込んでおります」

声は静かだった。

しかし、不思議なほどよく通る。

「民は武士に従う必要はない、と。

 力ある者の支配は悪であり、皆が等しくあるべきだ、と」

一瞬、誰かが笑いかけた。

だが、次の言葉で、その表情は凍りつく。

「――では、問います」

まな姫は、評定の間を見渡した。

「等しいとは、誰が守るのでしょう」

沈黙。

「田を耕す者が、剣を取りますか。

 子を抱く母が、夜盗と戦いますか」

ゆっくりと、しかし確実に言葉を重ねる。

「“等しさ”とは、責を分かち合うことです。

 守る責を負わぬ等しさは、ただの放棄です」

ざわめきが消えた。

「里見は、力で民を縛ってはおりません」

まな姫は、はっきりと言い切った。

「里見は、責任を背負っています。

 戦になれば先に血を流す責。

 飢えれば、最初に倉を開く責。

 間違えれば、名を賭して詫びる責」

一拍、間を置く。

「それを“悪”と呼ぶなら――」

彼女は、まっすぐに前を見据えた。

「この里見まな、

 その悪を、最後まで引き受けます」

その瞬間だった。

評定の間にいた誰もが、

これは議論ではなく、宣言なのだと理解した。

「思想を語る者よ」

視線は、京から来た学者へと向けられる。

「理想は結構。

 だが、それが血を流さずに守れると証明できるまでは――」

まな姫は一歩も退かなかった。

「里見は、この地の民を

 実験台には致しません」

沈黙。

重臣の一人が、深く頭を下げた。

次いで、別の者も。

やがて、その場にいた全員が悟る。

――この姫は、揺らがない。

――そして、この宣言は、もう“噂”では終わらない。

外では、冷たい風が止み、

雲の切れ間から、細い光が差し込んでいた。

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