第13話:芽吹く土と動き出す世
正木桜は今日も畑に立つ。
前話で進めた区画整理と土壌改良は、ただの“作業”から、正木家の新制度の礎へと変わりつつあった。
■ 脳内会議、ふたたび開廷
桜の頭の中では、いつもの会議が始まっている。
現代教育を受けた桜の理性:「pH調整、堆肥の炭素比、排水経路の設計…」
戦国語翻訳担当の桜:「それをどう噛み砕くかが問題じゃ…」
内政好きの桜:「要は『水はけ良く』『栄養は偏らせず』『土は呼吸させる』の三本柱である!」
しかし外に出る言葉は――
「土は息をしておる。水は道を作り、肥えは土の血となる」
周りは「詩か?」「呪文か?」と戸惑いつつも、なぜか腑に落ちる。言葉は理解しきれずとも、結果が正義。畑は確実に変わっていく。
■ 家族の笑顔と信頼の連鎖
その変化はまず家族から始まった。
父は鍬を握りながら笑う。
母は土に触れながら目を細める。
弟妹たちは畑の畝の数を数えながらはしゃぐ。
「桜の話はよう分からぬが、畑は確かに強うなった」
他愛もない会話の中に、確かな信頼が混じる。
■ 台帳が“家の法”になる日
そして桜が作った管理台帳は、ついに正木家の制度として正式に採用される。
区画ごとの土の状態
耕作の担当者名
収穫量の記録
労働の割り振り
それは“紙の記録”を超え、家の運営を変えるルールブックとなった。
家臣たちは最初「面倒」と顔をしかめたが、成果が出ると態度が変わる。
「記せば見える。見えれば直せる。直せば増える!」
こうして台帳は、正木家の統治の象徴へと育っていく。
■ 村が動く、商人も動く
畑の成果が増えたことで、村人たちも桜の話を聞きに来るようになった。
相変わらず意味不明な単語も飛び出す。
「輪作」「微生物」「ロジスティクス」「マネジメント」
誰も意味は分からない。だが――
「桜が言うと畑が増える」
その一点だけで、村は必死に動き出す。
■ 目ざとい商人の嗅覚
収穫が増えた畑は、商人たちを引き寄せた。
まだ小さな流れだが、確実に集まり始めている。
「この村、妙に米も野菜も増えておるな?」
「正木の娘が何やら新しい仕組みを作ったらしい」
「利益の匂いがする!」
金の匂いではなく、発展の匂い。
商人たちはまだ観察段階だが、正木家の改革はついに外の世界の興味を惹きつけ始めた
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