129話 「それでも攻めてくる相手が現れたら?」
桜の沈黙
まな姫の問いは、静かだった。
「……それでも、来る者がいたら?」
その場の空気が、少しだけ重くなる。
桜は、すぐには答えなかった。
地図でも、帳簿でもなく、
自分の胸の奥を見つめるように。
② 桜の結論は、冷酷だった
「来ます」
短く、はっきり。
「必ず一度は来ます」
慈光尼が、目を細める。
「理由は?」
桜は言った。
「損得ではなく、
思想で戦う人間がいるから」
名を欲する者
恐怖で支配したい者
他者の成功を許せない者
「そういう人は、
損をしても攻めてきます」
③ 桜は、初めて“抑止の限界”を言葉にする
「抑止は、
“合理的な相手”にしか効かない」
百地が、低く唸る。
「……確かにな」
④ だから用意するのは「見せしめ」ではない
「だから私は――」
桜は、ゆっくり続けた。
「一度だけ、勝ちます」
全員が息を呑む。
「派手に、残酷に、
ではありません」
「徹底的に、記録が残る形で」
⑤ “勝つ”の定義が違う
桜の言う勝利は、戦場の勝利ではなかった。
侵攻理由を潰す
補給線を断つ
内部の不満を暴露する
商人が離れる状況を作る
朝廷・寺社・商圏に情報を流す
「戦が終わった時、
攻めた側だけが弱る」
慈光尼が、ゆっくり頷いた。
「見せるのは力ではなく、
“結果”か」
⑥ 百地の一言
百地は、短く言った。
「一度やれば、
二度目は来ない」
「忍びの世界でも同じだ」
⑦ 桜の“覚悟”が初めて口に出る
桜は、視線を伏せたまま続けた。
「……その時は」
「私が、表に出ます」
まな姫が、思わず立ち上がる。
「桜、それは――」
「知っています」
桜は、静かに遮った。
「私が“原因”になる覚悟です」
⑧ 桜が恐れていること
「制度は、
人を守ります」
「でも――」
一拍置いて。
「人は、制度を守れません」
だからこそ。
「壊すなら、
私を壊させる」
その言葉に、誰もすぐには反論できなかった。
⑨ まな姫の答え
沈黙を破ったのは、まな姫だった。
「……それは、
姫として許可できない」
桜が顔を上げる。
「桜が消えるなら、
里見が消える」
「ならば――」
まな姫は、はっきり言った。
「私が、盾になります」




