127話 桜が「抑止は永遠ではない」と悟る
――止め続けることは、できない――
① 何も起きなかった朝
里見の朝は、穏やかだった。
港に立つ兵はいつも通り。
市は賑わい、商人は笑い、
昨日と何一つ変わらない。
だからこそ、桜は立ち止まった。
(……成功、なんだよね)
誰も傷ついていない。
血も流れていない。
噂は効き、敵は引いた。
理想的な結果。
② 違和感の正体
桜は、帳簿を閉じる。
(でも、これを……)
(何年、続けられる?)
抑止とは、
相手が「迷う」ことに依存する戦略。
迷わなくなったら?
失うものがなくなったら?
こちらの事情を見抜かれたら?
抑止は、崩れる。
③ 百地の言葉が蘇る
ふと、百地三大夫の言葉が脳裏をよぎる。
「忍びはな、
いつか必ず見破られる」
「だから、
逃げ道を用意してから使う」
桜は、小さく息を吐いた。
(抑止も同じだ)
④ 「守れている」の錯覚
桜は気づく。
自分が守っていると思っていたものは、
止めているだけだった。
敵の進軍を止め
不満を止め
戦を止め
でも――
止め続けることは、
前に進むことではない。
⑤ 変化は、必ず起きる
桜の視線は、港の先――海へ向かう。
南蛮船。
商い。
新しい技術。
(世界は、止まらない)
里見だけが、
「今のまま」で居続けることはできない。
抑止は、時間を稼ぐ手段であって、
答えではない。
⑥ 初めて口にする言葉
その夜。
桜は、まな姫と慈光尼、百地を前にして言った。
「抑止は……永遠じゃありません」
まな姫は黙って聞く。
「いつか、必ず破られます」
言葉にした瞬間、
それが現実として胸に落ちた。
⑦ まなの理解
まな姫は、静かに頷いた。
「だから、今は“時間”を稼いでいるのですね」
桜は、少し驚いた顔をする。
「……はい」
「その時間で、
里見が“戦わなくて済む存在”になるまで」
それは、領主の視点だった。
⑧ 百地の評価
百地は、短く言った。
「やっと、“戦の先”を考え始めたな」
責めるでもなく、褒めるでもなく。
忍びとしての、正直な言葉だった。
⑨ 桜の決意(小さく)
桜は、心の中で呟く。
(抑止が壊れる前に)
(里見を、“壊せない存在”にする)
武力ではなく。
恐怖でもなく。
失えば、皆が困る存在に。




