126話 抑止のために“見せる演出”をどう設計するか
――見せる力、隠す力――
① 抑止は「噂」から始まる
桜は言った。
「兵を増やすより先に、“話”を増やします」
まな姫が首を傾げる。
「話……ですか?」
百地が小さく笑った。
「噂だな」
桜は頷く。
「正確な情報は隠す」
「だが、想像させる余白だけを与える」
② 見せる演出の設計
桜が出したのは、三つの指針だった。
一、数は見せない
「兵数は一切公表しない」
「ただし、“常に動いている”ように見せる」
港に現れる兵は日替わり
街道の詰所も配置を定期的に変える
見る者はこう思う。
「今日は多い」
「昨日とは違う」
= 正確な数が掴めない
二、技術を“半分だけ”見せる
鉄砲も、大砲も、南蛮技術も。
「撃たない」
「だが、見える場所には置く」
港に据えられた見慣れぬ砲架
火薬の匂いが漂う作業場
撃たないからこそ、
「いつ使われるか分からない」
という恐怖が生まれる。
三、情報源を錯覚させる
百地が補足する。
「風魔が聞く“噂”は、伊賀が流す」
だが、それは嘘ばかりではない。
本当の話:港の拡張
嘘の話:内陸での新兵器実験
混ざった情報は、
取捨選択する側を疲弊させる。
③ 慈光尼の懸念
慈光尼は、静かに言った。
「演出は、刃と同じ」
「使いすぎれば、必ず切り返されます」
桜も分かっていた。
「だから、一度だけ“破れかける”ところまで行く」
全員が顔を上げる。
一度だけ、抑止が破れかける小さな事件
――誰も知らぬ“境界線”――
④ 小さな異変
ある夜。
里見の外れの港町で、
倉が一つ、荒らされた。
奪われたものは少ない。
火薬の袋が一つ
見慣れぬ金具
被害としては、軽い。
だが百地は言った。
「試されたな」
⑤ 風魔の誤算
風魔側は、こう判断した。
「噂ほどの備えはない」
「内部は、まだ整っていない」
つまり――
抑止を“演出だけ”と見た。
一歩、踏み込んだのだ。
⑥ 破れかけた瞬間
翌朝。
港の警戒が一段階だけ上がる。
兵が増えたわけではない。
武器が増えたわけでもない。
ただ――
港の責任者が交代
倉の配置が変わる
噂話が、ぴたりと止まる
これが、逆に不気味だった。
⑦ 桜の静かな対応
桜は言った。
「追わないでください」
若い家臣が反発する。
「今叩けば――!」
「叩けば、“演出”が“実戦”に変わります」
その一線だけは越えなかった。
⑧ 百地の報告
数日後。
百地が告げる。
「風魔は、引いた」
理由は単純だ。
「奪ったはずの情報が、何の役にも立たない」
つまり、
見せたものは偽物か半端
本命は別にあると悟った
⑨ 桜の胸中
夜。
桜は、倉を見つめていた。
(今のが、限界だった)
(もう一歩踏み込まれていたら――)
初めて、背に冷たい汗が流れる。
抑止は、常に綱渡り。
それを、誰よりも理解した瞬間だった。




