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『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


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125/153

125話 防衛が“武力”から“抑止”へ移行していく葛藤

——刃を抜かぬという選択——

① 不安を口にする者たち

里見の評定の場。

地図が広げられ、港・街道・山間部に印が打たれている。

だが、以前と違うのは――剣の話が出ないことだ。

若い家臣が、ついに口を開いた。

「これほど備えておきながら……」

「なぜ、兵を増やさぬのですか」

その声には、忠誠と同時に焦りがあった。

「敵は、こちらの力を試してきます」

「抑止など、臆病と取られはしませんか」

その言葉に、数名が頷く。

戦国の常識では、

備え=見せる力=武力だった。

② 桜の迷い

桜は、すぐに答えなかった。

(彼らは間違っていない)

(戦国の現場では、正論だ)

だが同時に思う。

(一度、剣を抜けば)

(次は必ず、もっと大きな剣を求められる)

鉄砲を持てば、数を増やせと言われる。

兵を増やせば、隣国は倍にする。

――終わりがない。

桜は静かに口を開いた。

「戦えるようにすることと、戦わないようにすることは違います」

③ 慈光尼の言葉

場が少し重くなったところで、

慈光尼が穏やかに、しかし鋭く言った。

「剣を持たぬ覚悟の方が、実は重いのです」

皆がそちらを見る。

「剣を抜けば、責任は“戦”に転嫁できる」

「だが、抜かぬ選択は――」

一瞬、言葉を区切る。

「すべての結果を、自分で背負う覚悟がいる」

民が殺されれば、

「戦ったから仕方ない」とは言えない。

④ 百地三大夫の評価

百地は、腕を組んだまま低く言った。

「抑止は、忍びにとって最も難しい戦だ」

誰も遮らない。

「敵に“何かある”と思わせ続けねばならぬ」

「見せすぎても、隠しすぎても駄目だ」

「そして何より――」

百地は桜を見る。

「一度でも誤算があれば、血が流れる」

その言葉は、

抑止の残酷さを突きつけていた。

⑤ 現場の声

別の場面。

港の兵が、仲間に小さくこぼす。

「剣を振らずに、守れるのか」

農民は言う。

「戦が起きないのはありがたいが……」

「本当に大丈夫なのか」

抑止は、成果が見えない。

だからこそ、不安が溜まる。

⑥ 桜の決意(揺れながら)

夜、桜は一人で地図を見ていた。

(誰も血を流さないのが、最善)

(でも、最善は一番難しい)

抑止は、

成功すれば「何も起きない」。

失敗すれば、

「なぜ戦わなかった」と責められる。

それでも――

桜は、筆を置く。

「それでも、私は剣を遅らせる」

これは、

戦わない覚悟を選び続ける戦なのだと。

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