106話 他領の役人が制度を探りに来る
――測る者と、測られる領
不審な来訪者
城下の人帳記し所が落ち着き始めた頃。
昼下がり、場違いに整った装束の男が現れた。
年の頃は三十代半ば。
帯刀はしていないが、所作が武士だ。
「通りがかりの者だが……
少し話を聞いてもよいか」
名は名乗らない。
知子、最初の違和感
質問が、妙に具体的だった。
「記帳は任意か?」
「年貢との関係は?」
「逃亡者はどう扱う?」
「戸籍は何年で改める?」
――“通りすがり”の聞き方ではない。
知子は、教えられた通り答える。
「記すかどうかは、本人の意思です」
「年貢は、これまでと同じです」
「逃げた者を追うための帳ではありません」
男は、頷きながらも筆で何かを書き留めている。
役人、核心に触れる
「……では」
「この帳は、
領主が民を把握するためではないのか?」
場の空気が、わずかに張り詰める。
知子の返答(制度の“芯”)
「把握は、します」
「ですが――
把握されることを、
民が望んでいます」
男の筆が止まった。
背後で聞いていた者
少し離れた場所。
商人に混じって、桜がいる。
目を伏せたまま、聞いている。
来たな
男の正体
会話の終わり際、男は名を名乗った。
「相模・某家の勘定方だ」
――北条圏。
探る者の本音
「里見は、
民を囲い込もうとしているのか?」
「それとも、
民に“選ばせている”のか?」
桜、初めて口を挟む
「選ばせています」
男は驚き、振り返る。
「選ばれなかったら?」
桜は、少しだけ笑う。
「それは、
私たちの負けです」
役人の沈黙
その言葉に、
男はしばらく返せなかった。
負けを前提に制度を作る?
戦国では、異常だ。
百地からの後報
夜、密かに届く報告。
「北条の役人、
“里見は囲い込まずに囲っている”と」
「真似ができぬ、と」
慈光尼の分析
「これは、
力で奪う者には扱えぬ制度です」
「だからこそ、
怖い」
まな姫の一言
「……探られた、ということは」
「注目された、ということですね」
桜の脳内戦略会議(短)
制度は、
もう内政ではない
外交の“匂い”を持ち始めた
次に来るのは――
模倣か、
破壊か




