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『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


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閑話 桜の脳内戦略会議1

桜の脳内戦略会議は、これまでより静かで、深かった。

勢いも高揚もない。あるのは、積み上げてきたものをどう壊さずに守るかという思考だった。

技術はある。

物もある。

人も集まっている。

それを回し続ける金も、今はある。

――だからこそ、次に問われるのは「関係性」だと、桜ははっきり理解していた。

人は流れてくる。

噂に引かれ、仕事に引かれ、食に引かれ。

里見は“受け皿”として機能し始めている。

百地からの報告に、不穏な影はない。

風魔の動きも、まだ静かだ。

だが、静かであることは安全ではない。

それを、桜は誰よりも知っていた。

(防衛策は……必要)

(でも、やりすぎたら終わる)

常備兵はいる。

治安維持も、外への抑止力もある程度は足りている。

だが――

本当に戦になれば、里見の領内も無傷では済まない。

(万里の長城みたいに囲う?)

(……論外)

囲えば、守れるかもしれない。

だが同時に、商いは死ぬ。

人も来なくなる。

情報も止まる。

里見の強さは「閉じないこと」にある。

それを捨てる選択は、最初から存在しなかった。

(じゃあ、武器?)

一瞬、その考えがよぎる。

だがすぐに首を振る。

武器は、使われる。

使われれば、必ず血が流れる。

血が流れれば、恨みが残る。

(戦わずして勝つ……それが理想)

(でも、それは“全員が理性的”な場合の話)

戦国時代だ。

理屈より、感情。

合理より、意地。

「一生懸命」――

ふと、その言葉が浮かぶ。

(……一生懸命)

一所懸命。

一つの土地に、命を懸ける。

(そうだ)

(この時代の戦は……土地だ)

先祖代々の土地。

守るべき場所。

そこに縛られ、誇りを持ち、命を賭ける。

その対価として年貢を受け取る。

鎌倉から続く、武家の論理。

(この流れを……急に変えるのは無理)

制度を壊せば、反発が生まれる。

理想を掲げれば、敵が増える。

桜は、ゆっくりと息を吐いた。

(なら……変えるのは“正面”じゃない)

土地を奪わない。

土地を否定しない。

武家の誇りも、否定しない。

(でも……)

(“土地以外にも守るものがある”と、気づかせる)

それは、戦の前に奪えないもの。

焼いても消えないもの。

奪えば、逆に自分が困るもの。

――技術。

――商い。

――医療。

――人の流れ。

(里見に手を出すと、損をする)

その認識を、

戦の外側で、じわじわと広げていく。

桜の脳内で、次の一手が形を持ち始める。

壁ではない。

剣でもない。

“関係”という名の、見えない防壁。

(……焦らなくていい)

(まだ、時間は味方してくれてる)

そう思いながら、

桜は静かに目を閉じた。

次に動くのは、

敵ではなく、周囲だと知りながら。

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