99話 幸恵の挑戦
――“小さな違和感”の正体
幸恵は、市で足を止めた。
南蛮人が二人、並んで歩いている。
肩が高い。
腕が太い。
歩幅が、明らかに違う。
(……大きい)
隣を行く里見の町人が、子どものように見えた。
同じ大人なのに。
「背が高いから?」
そう思いかけて、首を振る。
肩の位置。
胸の厚み。
首の長さ。
“伸び”ではない。
作りが違う。
その夜、幸恵は思い出す。
米。
麦。
芋。
魚。
里見の食は、量よりも“無駄のなさ”だ。
腹八分。
季節任せ。
南蛮人はどうだ?
肉。
乳。
油。
酒。
(……毎日、力がつくものを食べてる)
だが、それだけでは説明が足りない。
幸恵は、子どもたちを見る。
里見の子。
南蛮人の子。
――成長の速さが違う。
「食べる量じゃない……
食べる中身だ」
そこから、幸恵の挑戦が始まった。
まず、記録。
年齢。
身長。
体格。
病気の多さ。
寺の子、港の子、農家の子。
できる限り、測った。
次に、聞き取り。
何を食べているか。
いつ食べているか。
母は何を食べていたか。
南蛮の技術者にも、通訳を通して尋ねる。
「子どもの頃、何を?」
返ってきた答えは単純だった。
「肉と乳だ。
毎日だ」
幸恵は、紙を押さえる。
(……母の食事)
妊娠中。
授乳期。
“最初の栄養”が、違う。
幸恵は、野乃の薬棚を見る。
桜の話を思い出す。
「体は、積み重ねで出来てる」
ならば――
大人になってからでは遅い。
幸恵は提案する。
・妊婦への栄養配分の見直し
・子ども用の食事を大人と分ける
・魚だけでなく、骨と内臓を使う
・豆と油の使い方を変える
「大きくするためじゃありません」
そう前置きして、幸恵は言う。
「強く、折れにくくするためです」
里見の人間が、皆、南蛮人のようになる必要はない。
だが、理由もなく“小さい”ままでいる必要もない。
最初は笑われた。
だが、桜だけは違った。
「いいところに気づいたね」
幸恵は、その言葉で確信する。
この挑戦は、
剣でも、船でも、薬でもない。
――人そのものを、変える挑戦だ。
幸恵は、街を歩く。
今度は、違和感ではない。
未来を、見ていた。




