92話 ガラス技術の未来、色を読む者 ――香織という才能
ガラス工房の一角。
まだ炉の火も安定しきらないその場所で、
香織は一人、完成品を並べていた。
透明。
淡い青。
わずかに緑がかった硝子。
どれも南蛮の技術者が作ったものだが――
香織の視線は、色の差だけを追っていた。
香織の違和感
「……同じ砂でも、色が違う」
誰も気に留めないほどの差。
しかし香織にははっきりと分かる。
灰の混ざり具合
炉の温度
冷ます速度
金属分の残り
それらが、
微妙な色の揺らぎとして現れている。
桜はその様子を黙って見ていた。
(この子は、“見る”のではなく
“感じている”)
香織の提案
香織は恐る恐る口を開く。
「……色を、決めませんか?」
「決める?」と桜。
「はい。
用途ごとに、です」
香織の色分け案
医療用:
完全な無色透明
→ 混ざりが一目で分かる
酒・薬保存:
淡い褐色
→ 光を遮り、劣化を防ぐ
香油・化粧:
薄桃・淡紫
→ 公家向け、安心感と美
交易・贈答:
青・緑
→ 南蛮趣味、異国感
南蛮技術者が思わず息を呑む。
「……そんな使い分けは、
我らもしておらぬ」
桜の即断
「香織」
呼ばれて、香織は背筋を伸ばす。
「ガラス工芸品の色設計、
全部任せる」
周囲がざわつく。
まだ少女。
職人でもない。
だが桜は続けた。
「この人は、
“売れる色”と
“使われる色”を分けて考えてる」
それは、
技術者ではなく設計者の視点だった。
香織の責任
その日から香織は、
灰の配合を記録し
炉の温度を刻み
冷却時間を比べ
色見本を作り始めた
誰に言われたわけでもない。
(任された)
それだけで、
彼女の目は変わっていた。
桜の脳内戦略会議(短)
(武器は鉄だけじゃない)
(色は――
信頼と欲を生む)
(そして香織は、
それを無意識に分かっている)




