90話 造る間に、守る
――海に引かれた見えない線
港を造ると決めた、その夜。
里見の評定は終わらなかった。
問題は「工事中」
慈光尼が静かに言葉を落とす。
「港を造っている間が、一番脆い」
工事は年単位。
南蛮船は沖合に留まり続ける。
人と物が動けば、必ず噂が立つ。
――北条は気づく。
――風魔も、必ず嗅ぎつける。
「完成する前に壊されれば、全てが無になる」
その一言に、場が重くなる。
桜の描く“仮の港”
桜は机に地図を広げた。
「本当の港は、まだ見せません」
指したのは、港から少し離れた入江。
「ここに“仮の荷揚げ場”を作ります」
役人が眉をひそめる。
「そこは浅く、狭い」
「だからです」
桜は続けた。
「小舟だけが出入りする。
南蛮船は常に“沖”。
見えるのは漁と変わらない光景」
海の中の防衛線
さらに桜は言う。
「夜、ここには入れません」
慈光尼が意味を察した。
「……海の忍び、ですね」
伊賀の者が密かに動く。
潮の流れ、岩の位置、夜の音。
「敵が来れば、
“嵐でも出た”と思わせて追い返す」
倒さない。
捕らえない。
存在だけを感じさせる。
それが一番、恐ろしい。
義堯の一言
「戦をせずに、戦うか」
義堯は笑った。
「里見らしい」
南蛮側の反応
マテオは驚きつつも、納得した顔をした。
「賢い。
港が完成した時、
この地は“ただの交易地”ではなくなる」
梨良は、その言葉を聞き逃さなかった。
(港は、未来そのものなんだ)
見えない盾
こうして里見の海には、
地図に載らぬ線が引かれた。
・仮の港
・忍びの海
・噂だけが先に走る交易
完成するまでの数年。
里見は守りながら、育てる道を選んだ。
そして桜は、心の中で次を考えていた。
(港ができた時、
“何を流すか”が、本当の勝負)




