第10話「土を読む姫と、変わり始める風景」
1. 早朝、また始まる脳内会議
桜はまだ夜の冷気が残る畑に立ち、息を白く吐いた。
(脳内) A「土の改良は手触りで判定するしかない」
B「水路の勾配をもっと緩やかに」
C「区画札の耐久が低い。油紙で保護しろ」
D「戸籍はまだ内々に。表に出すな」
桜(脳内)「わかってる。…焦らない、でも止まらない」
■ 2. 土壌改良の進化: “手で測る基準” の制定
家臣・宗吉と農民たちが集合。桜は土を3つの区画から採取して、手で握りしめた。
桜「みんな、これからは土をこう握って判断してほしいの」
農民「握るだけでよいのですか?」
桜「うん。私が決めた “土の体調の三段階” でいく」
桜は説明した。
ぎゅっと握ってもすぐ崩れる → 元気
崩れるけど少し固まりが残る → ふつう
なかなか崩れない → 休ませるべき
農民たちは何度も握って試し始める。
「おお…これは“ふつう”だな」
「こっちは“休ませるべき”か…なるほど…!」
(脳内) C「pH計もECメーターもない戦国で“握る”が標準になるとは…歴史の書き換えだな」
D「書き換えてるのは土だけよ!」
■ 3. 水路と区画の改修計画
桜は畑の境界に沿って、さらに縄と板で区切り直し、流れる水の溝を指でなぞった。
桜「水路は太くするだけじゃだめ。水が急ぎすぎると土が疲れるの」
宗吉「急ぎすぎると?」
桜「だからゆっくり流れる道に変える。
そして区画ごとに “水の休憩所” を作る」
宗吉「休憩所…?」
桜「そう。溜めて・落として・また流す。それが土に優しい」
宗吉は感心しながら板にメモを書き、棚に差し込む。
■ 4. 戸籍の種まき: “人の力の台帳” を試験導入
作業の合間、桜は棚の二段目にこっそりと新しい板札を並べていた。
見出しは「耕し台帳」。畑の管理札とは別枠だ。
【世帯 03】
名: 田中伊三郎
人数: 6(働き手4 / 子2)
消費: 米 月1.1石 / 塩 2箱
土の担当区画: 2・4・7
特性: 耕し速い / 水路管理うまい / 棚札の更新も任せられる
桜は呟いた。
桜「畑は土だけじゃない…人の配置でさらに強くなる」
宗吉「桜様、何か?」
桜「…なんでもない! 種の記録よ!」
(脳内) B「今のは人員最適化の発言だったな」
A「戸籍制度の萌芽だ」
C「だが皆にはまだ “家族の働き手の記録” にしか見えてない」
D「それでいいの。今は “芽” だから」
■ 5. 夕餉、他愛もない家族の会話は続く
夜。正木家の食卓。
兄・綱吉は今日の板札を棚から引き抜きながら言った。
綱吉「お前の棚、家宝になりそうだな」
桜「家宝じゃなくて家の補助装置」
母・椿「ほじょ…?」
桜「家を支える仕組みってこと!」
父「で、畑はどうなる?」
桜「…もうすぐ変わる。匂いも、触りも、水の音も」
弟「姉ちゃん、そんなに土って変わるの?」
桜「変わるよ。土が変われば、人が変わる。人が変われば国が変わる」
志乃(祖母)「ほう…随分と大きな話になったな」
桜「大きくなるのはこれから!」
家族はまた笑った。
だがその笑いの裏で、桜の計画は着実に根を張り始めていた。




