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彼女からの年賀状

作者:

 真っ白に染まる道路の前で息をはくと白いきりが立ち込めた。

 早朝の静寂な住宅街。住人達が起きだして家の中を温めるために暖房をつけ始める時間帯。

 遠くには早起きの老夫婦が一緒に歩道を散歩している姿が見える。

 その光景は微笑ましくもあるが、僕の古傷をえぐるように胸が痛んだ。


 今日は彼女と離れ離れになってから二度目の元旦がんたん

 寒風かんぷうが体をしんから冷やしていった。

 

 「あんずは元気にしてるかな」


 高校一年生の時、家族の都合で田舎の高校へ転校した恋人のあんず

 今の時代、メールやsnsで簡単につながれるのに彼女はそれを嫌がった。


 『どうして?』


 『それじゃ、つまらないから』


 そう言って悪戯いたずらするようにニッと笑った顔を思い出す。

 だから僕らのやりとりは年に一回だけ。

 寂しいけれど、それが勉強のモチベーションに火をつけているのも確かだ。

 同じ大学に行く。そこで会えなければ僕達の気持ちはそれまでだったということ。

 厳しいようでいて、なまけがちな僕の性格を見抜いている彼女の優しい配慮はいりょ。なんとなくそんな気がする。


 「おっ、やっと来たか」


 ブブブンと遠くから聞こえてくるバイクのエンジン音はまるでサンタクロースのよう。赤いバイクが一軒一軒近づくたび、プレゼントを待つ子供のように胸がときめいた。


 「お疲れ様です!」


 元気に挨拶をすると、配達員の人もにっこりと笑顔で返してくれる。

 手渡しでもらった年賀状を手に、感謝を伝えると隣の家へとブブブンとバイクを走らせる。

 住宅街に響くエンジン音が鼓膜こまくを叩く中で年賀状の束をあさった。


 「あった。彼女からの年賀状」


 馬をモチーフにした可愛いらしい年賀状には新年あけましておめでとう。と印字されている。

 空いた場所には手書きの文字と馬のイラストが書いてあった。


 『さとる、来年受験だよ。絶対合格しようね!』


 杏の顔と声がハガキ越しに伝わってくる。

 たった一行の短い文章なのに、どうしてこうも僕の心を打つのだろう。

 気が付くと雪がコンコンと降りだしていた。

 白いかたまりが僕の手に触れるとまたたく間に溶けだしてしまう。


 「君のせいで僕の高校生活は勉強漬けの日々だよ」


 僕の体は燃えていた。もう寒さなど微塵みじんも感じなかった。


 「来年。絶対に一緒の大学に通ってみせる」


 彼女も僕の年賀状で同じ気持ちになってくれていたら嬉しいな。

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