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3 主人公は部活に入りたい


 俺の名前は一ノ瀬(レン)

 なぜか行く先行く先でクラスメイトの楠木(アヤ)さんと出会ってしまうため、ストーカー疑惑を持ち始めてしまっています。


 そして、「アホ毛の不審者が助けてくれて、ネズミ声で去っていった」事件から一週間が経ち、転校してきたことからは一ヶ月ちょい経ってます。

 俺の生活も安定し、部活に入ってみようかなとも思い始めていました。


 その理由には、一週間前のネズミ声事件で、藤堂(ハル)さんに追いかけられていた時に、運動でかく汗の気持ちよさに気づいたからです。

 なので、運動部に入りたいんだが……。


 空白の入部届けをぴらぴらと振りながら、ふいに朱色の空の下野球をする野球部を眺めた。


 ……野球部はダメだ。藤堂明がいる。

 あいつはダメだ。目が逝かれちまってる。


 野球部から目をそらし、教室のドアに向かってすたすたと歩き出した。


・・・


 ただ、俺は部活の知識なんかないし……。

 こういう時は、誰かに聞いた方が確実だ。


「あ、すみません」

 俺は適当に廊下を歩いていた、ジャージ姿の男子生徒に声をかけた。


 男子生徒は「はい?」と振り返ると、「え」と大きく目を見開いた。

 その時、ざわっと髪が揺れ、ピョンッと勢いよく()()()が立ち上がった。


(アホ毛……!?)

 レンも驚きで目を見開いた。アホ毛の男子生徒は少し黙った後、にこりとほほ笑んで言った。

「はい、なんですか?」


「え……あ、あの、運動部に入りたいんですけど、どこに入ればいいか分からなくて……」


 しまった、先生に聞けばよかった、と聞いた瞬間に後悔した。

 この男子生徒が運動部だとすれば、自分の部活を進めてくると分かっていたからだ。


 しかし、彼の反応はレンの予想とはかけ離れていた。


「はい、いいですよ。まずは、王道のサッカー部から行ってみます?」


「! ……はい!」


・・・


 サッカー部の部員に事情を説明しているジャージ姿のアホ毛を少し離れたところで見つめながら、一週間前の事件のことを思い出していた。

 感謝を伝え忘れていたから、本人かどうか確認したいが……。


 いや、アホ毛がある時点で本人確定か?


 そう考えていると、男子生徒がレンに歩み寄り、「ちょっと様子を見ていてもいいって」と優しく微笑んで言った。

 レンはその様子をじっくり観察し、意を決して口を開いた。


「あの、ちょっとどこぞのネズミの声を出してくれませんか?」

「なぜに???」


   ※レンが持っているあのアホ毛さんの情報はアホ毛とネズミの声まねだけです


 そのままいくつかの部活を見て回ったが、どこもいい部活はなかった。

 陸上部は熱血すぎて嫌だし、柔道は暑苦しい。空手は上下関係がキツいし、水泳部は雰囲気がちょっと怖いし、バスケ部は顧問が怖い。


「これで全部ですか?」


「……いや、あと一つ残ってるよ。俺が入ってる部活なんだけどね?」


 レンより少し身長の低いアホ毛を見下ろしながら、彼の後ろをついて行く。


 ……そういえば、アホ毛さんは随分と友好関係が広いみたいだったな。

 名前は何だっけ? なんて呼ばれてたかな……確か、色がついてた……。


「ついたよ。俺は、剣道部なんだ」


「へー」


「あはは、よく意外って言われちゃうんだよね……」


「しょうがないですよ。実際、意外ですもん。ブルー()さん!」

「青木な?」


 すっかり懐いて満面の笑みが浮かんでいる俺に、ブルー木は容赦なくツッコミを入れた。


・・・


「青木くん! どこ行ってたんだい!?」


「すみません、先生」


 アホ毛さんに駆け寄ってきたのは、おそらくこの部活の顧問。

 周りに花が浮かんでいそうなほんわかとした教師だった。


「じゃあ、ボクちょっと着替えて来るわ」


「はい。……ん? あれ、喋り方……」

 方言ような喋り方に少し違和感を覚える。


「ん、ああ。ボク、近所に京都弁のお兄さんがおってなぁ、憧れてしもて……喋り方、ちょっと真似してるんよ」


 へー、と思いながら剣道部の活動の様子を眺めていた。

 その時、顧問の先生が「青木くんは剣道部の主将なんだよ」と教えてくれた。


 ……でも、なんとなく違和感がある。

 何か……あの時あった”アホ毛さん”と違うような……?


「……京都弁かな」


 そう思いながら、アホ毛さんが戻ってくるのを待っていた。


・・・


 青木は、怜に着替えてくると告げ、ニコニコとほほ笑みながら怜に手を振りそこを離れた。

 怜も、顧問の教師に呼ばれ、見学をするために場所を変えたようだ。


 怜の視界から外れたとたん、青木は足を止め、物陰に声をかけた。


「――で、さっきから何コソコソついて来とんねん、兄貴」


 すると、物陰からもう一つのジャージ姿のアホ毛が出てきた。そのアホ毛こそ、怜を助けた本物の”アホ毛さん”だ。

「……気づいてたんならさっさと声をかけてくれ。それより何なんだ。一ノ瀬さんに手を出したりして」


「手を出すなんて酷いなぁ。ボクはただ、困っとる転校生を助けただけやよ?」


「……とにかく、()()()()()のお前が、一ノ瀬さんに近づくのはちょっと許せない」


 さっきまで怜の隣にいた彼は、青木の双子の弟、青木悠陽(ゆうひ)。昼ドラ体質。

 悠陽は、興奮したときなどに髪が逆立つ。アホ毛と言うより、”癖毛さん”が正しい。


 そして、怜を助けた本物の”アホ毛”は、青木朝陽(あさひ)という名だった。


「んふふ、ええやん兄貴。兄貴かて巻き込まれて迷惑してはったんやろ? やったら……」


 ――夜が明けたときのような眩しい青春の恋愛の朝陽には、いつか、生々しい恋愛の夕日がさしてまうんえ?


 朝陽はグッと少し食い下がると、

「……じゃあ、楠木さんには近づかないでね」

 と言った。すると、悠陽は意外そうに目を見開いた。


「意外やなぁ。てっきり急いで止める思っとったんやけどな」


「ふん、まあ、兄貴や父さんに比べたらマシだから」

「あー、なんかわかる気がするわ」


   ※兄:BL体質  父:官能体質


・・・


「というか、兄貴なんでジャージなん?」


 悠陽は少し呆れながら聞いた。

 すると朝陽は「ああ」と笑って答えた。


「少女漫画展開に出会わないように校舎裏に居たら、上からバケツの水が降って来てさ、びしょ濡れになったんだよ」


 なんやねんそれ……と、悠陽は突っ込んでしまいたかったがグッとこらえ、今一番気になっていることを聞いた。


「兄貴……今、履いとる?」

 視線を朝陽の顔から下半身に移すと、朝陽は顔を真っ赤にして「は、履いてるよ!」と叫んだ。

「大声出したら怜来んで?」

「っ!?」


 朝陽は一度深呼吸をしてから、にっこりとほほ笑んだ。


「それに、こんなこともあろうかとコンビニで予備のパンツを買っておいたんだ」


「なんやねんその”こんなこともあろうかと”……」


・・・


 その時、一ノ瀬怜は見てしまった。

 青木悠陽が、青木朝陽と話しているところを!


 ……と言っても、朝陽のことを直接見たわけではなく、物陰から朝陽のアホ毛を少し見たくらいだ。


(! あれは……ブルー木?)

 ジーッと観察していると、会話しているもう一人は、ジャージ姿だと気づいた。


 ジャージについているこの学校のイニシャルの色が赤の為、その生徒は二年だと分かった。

 アホ毛さん、双子だったのか!? そう気づき、怜は顎に手を当てて考えた。


「ああ、ごめんな怜、待たせてもうて……」


「いや、謝らなくてもいいですよ()()()()さん」


「わぁい(?)昇格したわぁ?」


・・・


「うわ、めっちゃ暗いわぁ」


 その日のうちに怜は剣道部に入部し、無事に一日が終わった。

 悠陽は空を見上げ、駅に向かって歩き始めた。ちなみに、朝陽はあの後すぐに帰った。


 すると、駅の前で見覚えのある人を見つけた。


 中性的な見た目の青年だ。その青年を見つけた瞬間、悠陽はパアッと顔を明るくし、髪がピョンと逆立った。


(コウ)にい!」


 煌と呼ばれた青年はビクリと肩を揺らし、悠陽の方を見て、白い紙マスクを顎まで下げた。


 綾小路(あやのこうじ)煌。青木家長男の親友だ。

 そして、悠陽が憧れている人でもある、京都弁の青年。


 青木家長男と同じく、ホストとして働いている。

 そこそこ人気だからこんな時間にここに居るのは珍しい。煌は悠陽のそんな考えを見破り、ニヤリと笑った。


「今日はなぁ、お肌のために早よ寝よ思てんえ。せやし、今日はあんまり稼げてへんのよ」


「煌にい、夜遅くのお仕事が多いもんね!」


「……最近なぁ、気持ち悪いおっさんにつけ回されててな……時間ずらしたいんよ」


 ああ……と悠陽は納得する。

 煌は知らないが、同じ店で働くホストである友人はBL体質の上、慕ってくる近所の学生は昼ドラ体質のため、そういういざこざに巻き込まれやすいのだ。


 二人は楽しく会話しながら、仲良く家まで帰ったのでした。


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