2 屋上まで少女マンガ圏内
一ノ瀬レンが転校して来てから早一ヶ月。
ぼくは毎日のように彼らの少女漫画イベントに悩まされていた……。
そんなある日、僕は気づいた。
(立ち入り禁止の屋上に行けば、主人公たちには出会わないのでは?)
と――。
今までぼくが彼らに出会ったのは、先生の手伝いだったり、動物のエサやりだったりをしていた時だった。
まあ、一応教室でも会っているんだけど。
「ということで! 妹よ! パーカーを貸してくれー!!」
満面の笑みで妹の部屋に飛び込む。
すると、スマホを見ていた妹に「朝っぱらからうるせーんだよクソ兄貴―――!!」と殴られそうになった。
・・・
ということで、制服着崩し+パーカーで、不良コーデ完了☆
いや今回は結構自信あるな。絶対に巻き込まれない。
そう思いながら、昼休みに屋上へ飛び込むと・・・
「お前生意気なんだよ! アヤに近づきやがって!」
屋上の扉を開けた瞬間、そんな怒声が耳に飛び込んできた。
驚きで笑顔の状態でフリーズ。
(うっそーんでしょーー……??)
※語彙力低下
青木はちらりと屋上を見る。
そこには、ヒロイン、楠木アヤの幼馴染、藤堂ハルさんが居た。
そしてハルの視線の先には、この少女漫画の主人公、一ノ瀬レン。
アヤの幼馴染であるハルの目は、嫉妬と怒りでぎらついている。
(ぼくの安全地帯どこ……?)
レンは、プチ絶望をじっくりと味わわされている青木の存在に気づき、青木の方を見た。
青木は咄嗟にフードを被り、紐をキュッと引っ張って顔を隠した。しかしいきなりのことだったため、チャームポイントのアホ毛がフードから飛び出した。
(……ヤバいこれ完全に不審者じゃん……)
フード顔隠し&アホ毛ぴょん。そのおかしな格好にハルとレンは思わず動きを止めた。
数秒の沈黙が流れる中、レンがハッと我に返り、青木に向かって「助けてくれ!」と叫んだ。
(え、ええーー、ぼくあんまり主人公たちに関わりたくないんだけどな……)
ぼくは少し迷ったが、覚悟を決めて一ノ瀬さんに駆け寄り、一ノ瀬さんの手を掴んだ。
「……………ごっじ!」(訳:こっちに来てください)
あヤバい一ノ瀬さんに警戒された。
だってしょうがないじゃん声で身元バレるの嫌だし。
ごめんなさい、少女マンガに変質者が紛れ込んでしまいました(泣)
・・・
野球部のハルさんを撒くのは大変だったが、頭を使ってどうにか撒いた。
ハルさん、そこまで成績は良くなかったし……。
疲れ切って地面にしゃがみこんでいる一ノ瀬さんと一緒に息を整えながら、ぼくはハルさんが近くに居ないか確認した。
「はぁー、ようやく逃げられたよ、ありがとうアホ毛」
さわやかな笑顔でそう言われ、変なあだ名がついたなと心の中で思った。
しかし、変な構図だな。いい汗をかいている爽やかイケメンに、フードの紐をキュッと占め顔を隠している上にフードからアホ毛が飛び出している男子生徒。
……ここに逃げてくるときにいろんな人にこの姿を見られたが、ぼくだってことバレてないだろうな……。
恥ずかしさで小刻みに震えながら、早くここを去らねばと限界の近い足で立ち上がる。
「じゃあね、ハハッ」
どこかのネズミのように高い裏声で一ノ瀬さんにお礼を言ってから、廊下全力ダッシュで逃げ出した。
・・・
「……あれっ? 一ノ瀬さん?」
廊下の片隅に座り込むイケメンに、一人の少女が声をかける。
レンが顔をあげると、そこには赤茶の髪をハーフアップにしたアヤがいた。
「ああ……楠木さん」
「ちょっと、すごい汗かいてる! 大丈夫? あっ、これ使って! ……私ので、よければ……」
アヤはレンにハンカチを手渡した。
そのハンカチには、小さなシロクマがちょこんとこちらを覗くオレンジのハンカチだった。
「……かわいい」
「あ、ごめんね! 使いたくなければいいの!」
アヤは少し焦りながら早口にそう言った。
そんなアヤを見つめ、レンは少し微笑んだ。
「いや、これでいい」
これは、転校してきて初めての、レンの笑顔だった。
アヤは少し顔を赤らめ、レンから目を外した。
・・・
(眼福……!)
その様子を、青木はプライバシーもクソもなく隠れて見ていた。
レンとアヤの物語は、一歩、ハッピーエンドへ向かった。
その日の放課後、学校で生徒会長をやっている妹が、ようやく家に帰ってくると、青木は借りたパーカーを妹に返した。
「はぁっ!? 臭ッ! 汗臭いんだけど! 兄貴、これで何したわけ!?」
「うっ、言われると思ってました……」
「そんなのいい! 何したのって聞いてるの!」
「……主人公の恋のライバルから逃げ回ってました……」
そうして青木は、自分の財布からパーカーの弁償代を祓うことになりましたとさ☆




