Ⅵ
軍の寄宿舎に戻った二人と一匹は、レオンの部屋にいた。これから出発の準備をするのだ。
「じゃあ、俺が汽車の切符を持ってるから。用意が終ったら来てくれ」
スマイクに渡された切符をチラつかせ、部屋に入ろうとしたレオンの腕を取って、シェランは聞いた。
「あの、レオンさん。ちょっと訊きたいんですけど」
「な、何だ?」
「私の部屋の鍵って、何処にありましたか?誰が持っていましたか?」
腕を摑まれたまま思いっきり顔を近づけて訊いて来るシェランに頬を赤くするが、すぐにレオンは答えた。
「将軍だけど・・・」
「ありがとうございます!」
レオンが答えた途端に腕を放し、シェランはサエを肩に乗せて走って行ってしまった。
「・・・一体何なんだ?」
寄宿舎の一階、管理人室の隣に電話がある。軍にかける場合は無料だ。
シェランは受話器を握り、すぐに三桁のボタンを押した。
「もしもし、南部軍将軍のスマイクさんに繋げて下さい」
軍に繋がった途端に用件を伝えた。すぐにスマイクに繋がり、彼の声が聞える。
『その声はシェランさんかな?一体何の用ですかな?』
「スマイクさんが、私の部屋の鍵を持っていたと聞いたので。・・・・一つ訊きたいのですが、誰が貴方にその鍵を渡したんですか?」
『答えた後に、こちらも質問してよろしいかな?』
了解を得て、スマイクは語り始めた。
三年前、一人で家に帰る途中に女性に声をかけられたこと。
その女性は白髪に漆黒の目の見目麗しい姿だった事。
彼女から、その部屋の鍵を渡され、誰にも渡さぬように頼まれた事。
話し終わると、スマイクは早速質問した。
『で、今度はそちらに答えてもらおう。君は純粋な外人。つまり、この国の人種の血は流れていないはずだ。では何故、Sランクになるほどの魔力を持っている?所持金が無いと聞いたが、すべて魔法を買うのに使ってしまったのか?どうなんだ?』
「私は、魔法を買ってはいません。ただ、これだけは言えます」
一つ、溜息をついてシェランは言い切った。
「この力が使える者達は、他にもいるという事です。少なくとも、スマイクさんはその三人に出会っています」
『待て、一体どういう・・・』
スマイクは会話を続けようとしたが、シェランは受話器を元に戻した。そして、肩に乗ったサエにそっと語りかけた。
「サエ、やっぱり私は、彼女の考えが読めない。一体あの人は何をしようとしているの?厳しいと思ったら急にこんなことをしてみたり・・・・・」
『考えても始まらん。直接聞いてみれば良かろう?』
「知ってるでしょ。どうせ答えてなんかくれないわ」
そう言いながら、静かに部屋へと戻って行った。
部屋の中、それは静かにあった。姿鏡の中に浮いている。
それを見つけたサエは、シェランのバックの中にそっと入れた。シェランは服等を用意していて、それに気付かない。
『まさか、奴がこの国にいるのか・・・?』
ポツリと呟いたサエの声は、シェランには聞えなかった。