ドアの鍵
少年は泣いていた。
暗く湿った部屋に閉じ込められたのが悲しくて。
独りぼっちなのが淋しくて。
彼は肩を震わせ、弱弱しく嗚咽していた。元々気が弱いのだ。怖い事、恐ろしい事があったらすぐ泣いていた。
そんな彼を癒してくれる物はこの部屋には無かった。窓はなく、重い鉄の扉には鍵がかかっている。中央に古ぼけた椅子が置いてある以外、この部屋には彼にそっくりな大量の人形しかなかった。その人形のせいで彼は余計に恐怖を感じたほどだ。
どれだけの間泣いていただろうか。
不意に外から物音がした。
……チャリン……
軽い金属音だ。何の音だろうと、少年はしゃくり上げながらもドアの鉄格子から外を覗いた。
「■ ■!…良かった。無事だったんだな」
ドアをはさんだ向こう側にいたのは、少年の親友。どちらかと言うとガキ大将のような彼と少年は、昔からいつも一緒だった。
「何だ。また泣いてたのか?…本とに泣き虫だな、お前。本当に男か?」
軽口を叩きながらも、彼は手に持った大量の鍵を次々に鍵穴に差し込んでいる。少年を助けようとしているのだ。しかし、その少年には分かっていた。その鍵の中に、このドアの鍵は無いことを。
「………無いよ」
「えっ?」
「その中にこのドアの鍵は、無い」
「何でそんな事分かるんだよ!やってみなきゃ分からないだろ!?」
「……それでも、無いよ」
そう断言されたが彼は気にせずに同じ行動を続けた。一つ一つ、確実に鍵穴へと鍵を挿している。
しかし、少年の言った通りその中にドアの鍵はなかった。
その後、少年の態度が気に食わなかったのもあるのだろう。彼は不機嫌なまま少年に何も言わずに帰ってしまった。
―――それが、二人の最後の会話。
その一週間後。
頭部の怪我による大量出血と栄養失調によって亡くなっている少年の死体が発見された。