はためくビール
都会では星が見えないというが、
代わりに星の数ほど居酒屋がある。
ここ三年はもう毎日のように、
あの店に通い、名物の「はためくビール」を飲んでいる。
そのビールを飲むたび、
背中のどこかが風を受けるように震え、
夜風に舞い上がりそうになるのだ。
舞い上がった星空には、
三日月型の米菓がたくさん浮いている。
試しにひとつ手に取って、
キミに渡してみる
「ねえ、これ、食べてみてよ」って。
キミは笑ってかじり、
パリンと夜空にひびが入る音がした。
僕らは割れた漆黒に吸い込まれ、
長い長い半透明のプラスチックチューブでぬりぬりと運ばれ、
辿り着いた場所はほかでもない
あの居酒屋のカウンターだった。
はためくビールの泡が、
また夜空の形をつくって僕らを見ていた。
「おかわりは?」
尋ねる店主に手だけでいいえと断ると、
代わりに壁の色あせたメニュー――骸骨のシチューを指差し、
「骨まで溶ける旨さだよ」と笑う店主の声を背に、
僕らは夜空を啜るように、
その骸骨のシチューをひと口運んだ。