異世界の会議室でプレゼンを
33歳、職歴に自信なし、貯金わずか。
「30歳までに何者かになるはずだった」──そんな夢はとうに終わっていた。
ブラック企業、挫折したYouTube活動、転職を繰り返す日々。
自分を変えたくても、何をすればいいのかすらわからない。
そんなある夜、目に飛び込んできたのは
《転職先は異世界でした》の文字。
胡散臭さ全開のその広告を、勢いでクリックした次の瞬間、
気がつけば見知らぬ街──異世界に立っていた。
「ここで、もう一度やり直してみませんか?」
必要とされたのは、学歴でも肩書きでも特別な才能でもなく、
ただの“失敗してきた経験”だった。\n\nこれは、もう一度人生に向き合う男の
異世界再スタート・キャリア成長ストーリー。
翌朝。ギルドの本部・上層階にある理事会室は、想像以上に静かで威圧感があった。
重厚な扉を開けて入ると、長テーブルの向こうには数名の理事たちが座っていた。年配の男性や女性、異なる種族と思しき者もいる。
「高橋圭太さん、ミリア・エレノアさん。記録調査のご報告、お願いします」
先に入っていたシオンが、ふたりを促した。
圭太は緊張で口が乾きそうになりながらも、手元の資料と魔導端末を確認した。
「はい。それでは、先日工房街で行った観察記録調査について、報告させていただきます」
声を張ると、自分の鼓動が少しだけ落ち着いた。
ミリアが隣で魔導映写機の操作を開始し、壁に工房街の映像が投影される。無言で作業する職人、黙々と染め物を混ぜる若者、道具を修繕する老職人。
「最初は、誰も私たちに関心を示しませんでした。しかし、“言葉”でなく“視線”と“記録”で彼らに向き合い続けた結果、少しずつ反応が返ってきました」
映像の中には、道具の説明をする職人の姿や、作業風景を見せてくれた少年もいた。
「この取り組みを続ければ、工房街との間に新たな信頼関係が生まれると、私たちは考えています」
静かに一礼した圭太の言葉に、理事たちは黙って資料を見つめていた。
しばらくの沈黙の後、一人の女性理事が口を開いた。
「……この記録、よくここまで撮らせてもらえたわね」
「彼らが、少しだけ“見てもらいたい”と思ってくれたからです」
圭太が即答すると、女性理事はふっと笑った。
「……面白い。新しい視点だわ」
その言葉に、理事会室の空気がやわらいだ。
数名の理事がうなずき、会議は前向きに進行していった。
会議が終わり、廊下に出た圭太は深く息を吐いた。
「緊張したぁ……」
「でも、すごくよかった」
ミリアがぽつりとつぶやいた。
「私も、あんなに堂々とプレゼンする圭太さんを見て……ちょっと、見直した」
「……今まで、どう思ってたの?」
「ふふ、それは秘密」
彼女の笑顔に、圭太の頬が少しだけ赤く染まった。
──この世界で、信頼を得るということ。
それは、過去を背負ってでも前に出る勇気の連続だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今回は圭太が“過去の自分の経験”を武器に、初めて異世界の組織で正式な発言権を持ち、しかもその提案がちゃんと評価されるという、大きな一歩の回でした。
同時に、ミリアとの関係も少しずつ変化していて、彼女の「ふふ、それは秘密」というセリフの裏にあるニュアンスを、楽しんでいただけたら嬉しいです。
“信頼を得ること”って、どんな世界でも本当に難しいけれど、
「向き合う」「見つめる」「言葉にする」ってことを積み重ねていけば、ちゃんと何かが届くんじゃないか──。
そんな気持ちをこめて書いています。
次回は、プレゼンの結果を受けて、新たな動きが始まります。
どうぞ、これからも圭太とミリアを見守ってやってください。
感想・ブクマ・お気に入り登録、とっても励みになります!




