次の手を取る
33歳、職歴に自信なし、貯金わずか。
「30歳までに何者かになるはずだった」──そんな夢はとうに終わっていた。
ブラック企業、挫折したYouTube活動、転職を繰り返す日々。
自分を変えたくても、何をすればいいのかすらわからない。
そんなある夜、目に飛び込んできたのは
《転職先は異世界でした》の文字。
胡散臭さ全開のその広告を、勢いでクリックした次の瞬間、
気がつけば見知らぬ街──異世界に立っていた。
「ここで、もう一度やり直してみませんか?」
必要とされたのは、学歴でも肩書きでも特別な才能でもなく、
ただの“失敗してきた経験”だった。\n\nこれは、もう一度人生に向き合う男の
異世界再スタート・キャリア成長ストーリー。
報告会から数日後、ギルドの資料室に新しい顔が集まっていた。
「今日は見学に来させていただきました。技術記録の仕事に興味があって……」
王都での発表をきっかけに、地方の若者だけでなく、別の街からも“学びたい”という声が届きはじめていた。
圭太とミリアは、少し照れながらもひとりひとりと丁寧に向き合った。
「記録っていうのは、特別な能力が必要ってわけじゃない。でも、“残したいと思えるもの”に出会ったとき、迷わず動けることが大事なんだ」
若者たちは真剣なまなざしでメモを取り、ときに質問し、手を動かした。
その様子を見て、圭太はふとミリアに囁く。
「……俺たち、今まで“ふたりで”って思ってたけど、少しずつ“仲間”になってきた気がする」
ミリアは頷いた。
「うん。次に手を伸ばしてくれる人がいるって、すごく心強いよね」
その日の午後。
圭太は空き時間に、ギルド近くの古民家を見に行っていた。
「築は古いけど、土間も広いし、光もよく入る」
ミリアに見せるために、撮影した写真を並べながら考える。
「……ここなら、記録作業もできるし、静かに暮らすにも十分だ」
夜、ふたりで夕食を囲んでいたとき。
「ねえ、今度この家、見に行ってみない?」
圭太の言葉に、ミリアは目を丸くして、それから小さく笑った。
「うん。行こう。一緒に住む場所を、ふたりで見つけよう」
──“記録”を軸に出会ったふたりが、今度は“暮らし”を編み始める。
新しい日々のために、次の手を、ふたりで取ろうとしていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は、「もう一度、自分をやり直したい」と願う主人公・圭太が、異世界での出会いや対話を通じて、“自分の価値”と“人とのつながり”を取り戻していく物語です。
派手な魔法もチート能力もありません。
あるのは、失敗や挫折を抱えたままの“ふつうの大人”が、もう一度前を向こうとする日々です。
誰かの声に耳を傾けること。
目の前の違和感を見て見ぬふりしないこと。
そして、自分を信じること。
この物語が、あなた自身のどこかと静かにつながるような、そんな作品であれば嬉しいです。




