ギルドという職場
33歳、職歴に自信なし、貯金わずか。
「30歳までに何者かになるはずだった」──そんな夢はとうに終わっていた。
ブラック企業、挫折したYouTube活動、転職を繰り返す日々。
自分を変えたくても、何をすればいいのかすらわからない。
そんなある夜、目に飛び込んできたのは
《転職先は異世界でした》の文字。
胡散臭さ全開のその広告を、勢いでクリックした次の瞬間、
気がつけば見知らぬ街──異世界に立っていた。
「ここで、もう一度やり直してみませんか?」
必要とされたのは、学歴でも肩書きでも特別な才能でもなく、
ただの“失敗してきた経験”だった。\n\nこれは、もう一度人生に向き合う男の
異世界再スタート・キャリア成長ストーリー。
ギルド本部は、想像していた“冒険者の酒場”のような雰囲気とは違っていた。木造の三階建てで、1階には受付と執務室、2階は研修室、3階には寮が併設されているらしい。
「ここが、俺たちの仕事場さ。まあ、慣れたら悪くねぇぞ」
レオは胸を張って案内する。通り過ぎる職員たちは老若男女さまざまだが、どこか現代のオフィスを彷彿とさせる空気もあった。異世界らしからぬ、きっちりとした事務作業の風景に、圭太は思わず立ち止まる。
「……これ、思ってたより“社会”だな」
「そりゃそうだろ。人が集まりゃ、どこだって組織になるさ」
研修室では数名の若者が座っており、その中には制服を着たミリアという女性の姿もあった。レオが説明するには、彼女は魔法技術部門の新入りで、機械や装置の整備が得意らしい。
「彼女はちょっと人見知りだけど、真面目で頭がいい。あんたとも相性悪くないと思うぜ」
圭太は一礼し、軽く声をかけたが、ミリアはほんの一瞬だけ目を合わせて、小さくうなずくだけだった。
レオはにやりと笑って肘で圭太を突く。
「ま、あの調子だけど、頼りになるから」
その後、圭太はギルドの研修担当者に案内され、1日のスケジュールや業務の流れ、現地の課題に関する基礎知識を叩き込まれる。ホワイトボード代わりの魔法板に映し出される図解、資料として配られる“羊皮紙PDF”のような魔法印刷物に、戸惑いながらも懐かしさすら覚えた。
「……意外と、仕事っぽい」
その感想は口に出すと妙に実感を伴った。肩書きも実績もない自分に、初めて“役割”が与えられている感覚があった。
(まだ始まったばかりだけど──)
背筋を伸ばし、圭太は小さく深呼吸した。
明日から、現地フィールド研修が始まる。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
第1話・第2話は、主人公・圭太が“何者にもなれなかった現実”と向き合いながら、
異世界という新しい舞台で再スタートを切るまでを描きました。
彼は特別な力を持っていません。
魔法も剣も使えないし、カリスマ性もない。
でも──人生に挫折した経験だけは、誰よりも豊富です。
そんな彼が、異世界で“誰かの役に立つ”という実感を得ながら、
少しずつ自己肯定感を取り戻していく過程を、これから描いていきます。
「自分にも、まだ何かできるかもしれない」
そんな希望を、物語を通して少しでも届けられたら嬉しいです。
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次回もよろしくお願いします!