ここにいるという覚悟
33歳、職歴に自信なし、貯金わずか。
「30歳までに何者かになるはずだった」──そんな夢はとうに終わっていた。
ブラック企業、挫折したYouTube活動、転職を繰り返す日々。
自分を変えたくても、何をすればいいのかすらわからない。
そんなある夜、目に飛び込んできたのは
《転職先は異世界でした》の文字。
胡散臭さ全開のその広告を、勢いでクリックした次の瞬間、
気がつけば見知らぬ街──異世界に立っていた。
「ここで、もう一度やり直してみませんか?」
必要とされたのは、学歴でも肩書きでも特別な才能でもなく、
ただの“失敗してきた経験”だった。\n\nこれは、もう一度人生に向き合う男の
異世界再スタート・キャリア成長ストーリー。
ギルドの物流拠点は、街の外れにある石造りの大きな倉庫だった。
事故の連絡を受けて駆けつけた圭太とミリアが目にしたのは、崩れた木箱の山と、呆然と立ち尽くす作業員たちだった。
「大けが人はいません。でも……出荷予定の記録媒体が破損していて」
報告に、圭太は息をのんだ。
「……この街と他都市をつなぐ、初の記録交流便だよな」
「うん。だから、すごく落ち込んでて……」
作業員のひとりが、壊れた記録端末の前でしゃがみ込んでいた。
「全部……俺のせいなんです。確認を一回飛ばして、早く終わらせようとして……」
圭太は膝をついて、その男と目線を合わせた。
「確認を飛ばしたのはミスだけど、あんたが“終わらせたい”って思うくらい、現場がきつかったってことだろ」
男はハッとしたように圭太を見た。
「原因は追及すべきだけど、“誰かが悪い”じゃなくて、“何が足りなかったか”を見よう。俺たちはそれを記録して、次に繋げるチームなんだ」
ミリアがその横で静かにうなずく。
「……私たち、今回の一件も記録としてまとめるよ。再発防止のマニュアルじゃなく、“誰かがちゃんと見てる”って伝わるような形で」
男の目に、わずかに光が戻った。
帰り道。夕暮れの中、倉庫の影が長く伸びていた。
「圭太さん、すごいね。あんなふうに、ちゃんと相手の立場を見て声かけできるの」
「いや……ただ、自分が言ってもらいたかったことを言ってるだけだよ」
「それが、すごいんだよ」
ミリアが立ち止まり、ふと圭太の方を見る。
「やっぱり、ここにいてくれてよかった」
圭太は少しだけ照れくさそうに笑った。
「俺も。ここで、君と一緒にいられるなら」
空に、星がひとつ灯った。
──選んだ場所で、誰かと共に動き、誰かの言葉を引き受けていく。
その覚悟が、圭太の足元を静かに強くしていった。
読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は、「もう一度、自分をやり直したい」と願う主人公・圭太が、異世界での出会いや対話を通じて、“自分の価値”と“人とのつながり”を取り戻していく物語です。
派手な魔法もチート能力もありません。
あるのは、失敗や挫折を抱えたままの“ふつうの大人”が、もう一度前を向こうとする日々です。
誰かの声に耳を傾けること。
目の前の違和感を見て見ぬふりしないこと。
そして、自分を信じること。
この物語が、あなた自身のどこかと静かにつながるような、そんな作品であれば嬉しいです。




