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『失敗は尊い価値』

33歳、職歴に自信なし、貯金わずか。


「30歳までに何者かになるはずだった」──そんな夢はとうに終わっていた。


ブラック企業、挫折したYouTube活動、転職を繰り返す日々。

自分を変えたくても、何をすればいいのかすらわからない。


そんなある夜、目に飛び込んできたのは

《転職先は異世界でした》の文字。


胡散臭さ全開のその広告を、勢いでクリックした次の瞬間、

気がつけば見知らぬ街──異世界に立っていた。


「ここで、もう一度やり直してみませんか?」


必要とされたのは、学歴でも肩書きでも特別な才能でもなく、

ただの“失敗してきた経験”だった。\n\nこれは、もう一度人生に向き合う男の

異世界再スタート・キャリア成長ストーリー。

翌朝、圭太は柔らかな朝日の差し込む部屋で目を覚ました。ベッドはふかふかで、天井は白く塗られ、木枠の窓の外には小さな庭と赤レンガの家々が並んでいる。


「夢じゃ……ない、よな」


着替えもされていた。Tシャツの代わりに、異世界風のシャツとズボン。肌触りは麻とシルクの間のような、不思議な質感だった。足元には革のスリッパが揃えてあり、見知らぬ場所にもかかわらず、どこか“丁寧に迎えられた”安心感があった。


ノックの音と共に、扉がゆっくり開き、昨日出会った女性──シオンが姿を現す。今日も整ったボブヘアと淡青の装束は変わらず、彼女の目はどこか仕事モードだ。


「おはようございます。今日から本格的に、あなたのキャリア面談を始めましょう」


「面談って……この世界で俺にできること、あるのか?」


「もちろんです。この世界の課題と、あなたの過去は、深く結びついています」


シオンは静かに椅子に腰かけると、小さな手帳のような魔道具を開いた。ページには文字が浮かび上がり、淡い光がじんわりとにじみ出ていた。


「まずは、あなたの“失敗歴”を確認させていただきます」


「……やっぱ夢であってくれよ」


そうぼやきながらも、圭太は諦めたように腰を下ろす。


シオンの語る“失敗歴”には、まるで人生の黒歴史を読み上げられているような恥ずかしさがあった。ブラック企業での退職、登録者の増えなかった動画、短期間で辞めたアルバイト……。


「……それ、俺の何に役に立つんだよ」


「すべては“理解力”と“共感力”という形で換算されます。この世界では、人々の課題に寄り添える人材が非常に重宝されているんです」


圭太は少し目を丸くした。誰かの役に立てるなんて、久しく感じたことがなかった感覚だった。


「じゃあ……たぶん、俺、異世界じゃわりと優秀かもな」


「その通りです。圭太さんの経験は、“失敗”ではなく“蓄積”です。ここでは“スキル”と呼びます」


部屋の空気が少しだけ軽くなった気がした。圭太は頷き、なんとなく笑った。


「その“スキル”とやらで、何すりゃいいんだ?」


「まずは、こちらの商人ギルドで行われている新人向け研修に参加していただきます。現場での観察から始めましょう」


シオンがそう告げたちょうどその時、部屋の外から元気すぎる声が飛び込んできた。


「シオーーンさん!また新人か!? ようこそ俺たちの地獄へ!」


扉が勢いよく開き、陽気な金髪の青年がずかずかと入ってきた。レオ──ギルドの若手で、圭太が最初に関わる異世界の仲間となる人物だった。


「圭太だっけ? よろしくな! とりあえず、重い荷物持つ準備はしとけよ!」


「え、えぇ……」


呆然としながらも、なぜか悪い気はしなかった。


──失敗の数だけ、何かを得るチャンスがある。


そんな気が、少しだけした。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。


第1話・第2話は、主人公・圭太が“何者にもなれなかった現実”と向き合いながら、

異世界という新しい舞台で再スタートを切るまでを描きました。


彼は特別な力を持っていません。

魔法も剣も使えないし、カリスマ性もない。

でも──人生に挫折した経験だけは、誰よりも豊富です。


そんな彼が、異世界で“誰かの役に立つ”という実感を得ながら、

少しずつ自己肯定感を取り戻していく過程を、これから描いていきます。


「自分にも、まだ何かできるかもしれない」


そんな希望を、物語を通して少しでも届けられたら嬉しいです。

感想・ブクマ・応援、とても励みになります!

次回もよろしくお願いします!


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