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転職先は異世界でした

33歳、職歴に自信なし、貯金わずか。


「30歳までに何者かになるはずだった」──そんな夢はとうに終わっていた。


ブラック企業、挫折したYouTube活動、転職を繰り返す日々。

自分を変えたくても、何をすればいいのかすらわからない。


そんなある夜、目に飛び込んできたのは

《転職先は異世界でした》の文字。


胡散臭さ全開のその広告を、勢いでクリックした次の瞬間、

気がつけば見知らぬ街──異世界に立っていた。


「ここで、もう一度やり直してみませんか?」


必要とされたのは、学歴でも肩書きでも特別な才能でもなく、

ただの“失敗してきた経験”だった。\n\nこれは、もう一度人生に向き合う男の

異世界再スタート・キャリア成長ストーリー。

深夜1時半。高橋圭太は33歳の誕生日を迎えたばかりの、都内にある築30年の古びたワンルームで、ノートPCの画面をぼんやりと見つめていた。


「もう33か……」


絞り出すような小さなため息が、薄暗い部屋にゆっくりと溶けていく。蛍光灯の明かりはどこか頼りなく、壁にかかった時計の針の音だけが静かに時を刻んでいる。画面にはいくつもの求人サイトがタブで開かれ、どれも似たような募集ばかりが並んでいた。


大学を卒業して入社した中堅のIT企業。入社当初は希望に満ちていたが、現実は違った。締め切りに追われる毎日、罵倒を浴びせる上司、寝る間も惜しんで働いた末に、心も身体も壊れて退職。


その後、自分を変えたくて始めたYouTubeも、再生数は伸びず、登録者数も停滞したまま。動画編集の知識やトークスキルを磨いたつもりでも、結局は空回りだった。今ではアルバイトと契約社員を掛け持ちする、先の見えない日々を生きている。


「俺、何やってんだろ……」


狭い部屋の隅には、ホコリをかぶったゲーム機や、編集中のまま放置された動画ファイルが転がっている。使い込んだノートPCのそばには、角がめくれた『転職成功術』の自己啓発本。圭太は目を細めて、再びブラウザをスクロールした。


ふと、ページ下部に異質なバナーが目に入る。


『転職先は異世界でした』


「……なにこれ」


思わず独り言が漏れる。胡散臭さ満点のコピーに眉をひそめたが、その下に添えられた一文が、なぜか胸をざわつかせた。


『人生を、もう一度やり直しませんか?』


指が、勝手に動いていた。マウスをクリックした瞬間、モニターが眩い白光を放ち、部屋全体が光に包まれた。


「うわ、ちょっ……!」


意識が遠のく感覚。床の感触が消え、圭太の身体は無重力の中をふわりと漂った。


目を開けた瞬間、空気が変わっていた。


目の前に広がっていたのは、石畳が敷かれた広場。レンガ造りの建物が整然と並び、露店では果物や布が並び、人々が賑やかに行き交っている。青く澄んだ空には、大きな飛行鳥がゆったりと旋回していた。


「……ここ、どこだよ……?」


Tシャツにスウェットという、自宅にいたままの格好の圭太は完全に場違いだった。周囲の人々の服装は中世ヨーロッパ風。カラフルなローブや革製のベスト、腰には短剣を吊るした者までいる。


そんな圭太に、背後から落ち着いた女性の声がかかった。


「ようこそ、高橋圭太さん。ここは『アリエスタ』──あなたが新たな人生を始める場所です」


振り返ると、銀色のボブカットに細縁の眼鏡をかけた女性が立っていた。洗練されたスーツに似た淡い青の装束。肌は透き通るように白く、声には妙な安心感がある。


「……は?」


圭太が戸惑う中、彼女は静かに続けた。


「私はシオン。この世界であなたのキャリアをサポートする、いわばキャリアカウンセラーのような存在です」


「キャリア……? 異世界で?」


冗談だろ、と思いながらも、現実とは思えない街の空気に、圭太は否定する気力を失っていた。


「ここはあなたの世界とは違いますが、抱えている問題はよく似ています。若者の離職、労働環境の悪化、閉塞感。あなたの経験は、きっとこの世界の助けになります」


「俺の……経験が?」


「ええ。あなたがこれまで味わってきた挫折や失敗は、無駄ではありません。むしろ、それこそが今ここで必要とされているのです」


圭太は広場の真ん中で立ち尽くしたまま、信じられない話に思考が追いつかずにいた。けれど、心のどこかで確かに──ほんの小さな光が灯り始めていた。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。


第1話・第2話は、主人公・圭太が“何者にもなれなかった現実”と向き合いながら、

異世界という新しい舞台で再スタートを切るまでを描きました。


彼は特別な力を持っていません。

魔法も剣も使えないし、カリスマ性もない。

でも──人生に挫折した経験だけは、誰よりも豊富です。


そんな彼が、異世界で“誰かの役に立つ”という実感を得ながら、

少しずつ自己肯定感を取り戻していく過程を、これから描いていきます。


「自分にも、まだ何かできるかもしれない」


そんな希望を、物語を通して少しでも届けられたら嬉しいです。

感想・ブクマ・応援、とても励みになります!

次回もよろしくお願いします!


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