ニノアシをフム
〝好き〟に現実的なオプションが色々付いてくる。結婚とか仕事とか親の事とか
「お父さんが〝生きてるうちに孫が見たいって言ってる〟って」
「そうそう、って何で知ってるの?」
佳世の声が大きくなって、桧山を見て立ち止まる。誰にも話した覚えないのに。
「忘年会の二次会、隣に座った時に言ってた。お父さんが入院して病院にお見舞いに行ったら言われたんだろ?妹さんはとっくに結婚して、子供も2人いるのにって、自分の病気の事よりも心配されたって。話した事覚えてないの?」
忘年会、そうだった。二次会の店で隣の席になったのまでは覚えてる。
その前の忘年会で、調子にのって営業課長と日本酒を沢山呑んで、二次会の記憶が曖昧になったんだった。
「ごめん…覚えてない」
桧山の手に力がはいる。〝ダメだなぁ〟と戒めるように。
「歩こ」
再びゆっくり歩き出す。
「その時に、〝オレじゃダメ?〟って聞いたんだ」
「えっ?」
佳世が桧山を見た。
「そしたら〝桧山くんは私にはもったいないよ〜〟っていいながらニコニコ笑ってさ、〝でもこの手は好きだよ〟ってオレの手をチョンチョン突付いてた。〝桧山くんの手は何でも出来る手だからね〜〟って」
「えっ…!
あの…恥ずかしいからそれ以上言わないで」
酔っていたとはいえあまりの失態に赤面してるのが自分で分かる。
「オレは嬉しかったんだよ。あの時年末に向けて大きな仕事抱えてプレッシャーが半端なかったからさ、佳世さんに可愛い顔で言われて嬉しかった」
笑って佳世を見る顔を受け止める。
「だから結婚の事、状況は理解してるつもり。オレが知ってる情報が全てだとは思わないから、佳世さんの今の気持ちも教えて。結婚に関する事に限らずオレと付き合う事に二の足を踏む理由」
優しく誘導されて、佳世もゆっくり口を開く。
「最初から最後まで年の差が気になってるだけだよ。それは私の弱さが1番関係あると思う。
結婚に関しては桧山くんが言う通り。お父さんを安心させてあげたいけど、若い桧山くんにすぐに結婚を視野に入れてもらうのは申し訳ないから。
あとは仕事、そろそろ主任への推薦をしたいって課長に言われてる。桧山くんの設計課と近くで仕事してるのに、やりにくいかなって思って」
水路の行き止まりまで来て、小さい橋を渡る。
来た道を水路を挟んだ道でまた戻る。
「年の差はもうどうしようもないから、受け入れるしかなくない?年の差という強みを前面に出して、弱みは2人でフォローすればいい話しだとオレは思う。
結婚に関しては、若いからって考えない訳じゃないよ。特にオレは結婚願望が強いから、なるべく早くしたいんだ。社会人になってからは、付き合う人も結婚を視野に入れた人としか付き合ってきてないよ。
仕事の事なら、一生懸命励んでいる佳世さん見て好きになったんだし、主任になってバリバリ仕事してる佳世さん見るのも今から楽しみ。それこそ近くで見ていたいよ」
佳世を見る桧山がいる。
きっと〝分かった?〟と得意げな顔で言ってるんだろう。
「私の心配はもう解決しちゃったの…?」
「だから逃げ回ったりしてないで、早く相談してくれれば良かったのに」
「だってさ…」
佳世が繋いだ手に力を込めた。
「分かってるよ、佳世さんはあと一押しが欲しかったって事もさ。オレがもう少し時間をかけて話しをすれば良かったんだよ」
「桧山くんが悪いわけじゃないよ。私が弱いだけ。年の差を理由にして、自分の気持ちに素直にならずに逃げてた」
桧山が止まるから、佳世も足を止める。
「一番大切なのは佳世さんがオレを好きなのか、って事じゃない?」




