初等教育機関卒業 その2
レイレイが、ある程度歩くことが出来るようになってからは、念のために、部屋に施錠をおこなっていた。
ガリンが、文様術を利用した鍵を取りつけ、内側からは自由に外にでれないようにしていたのだ。
ルルテは、
「人権の侵害だ。」
と、いってガリンを責めていたが、ガリンも
「これは、ルルテ自身の安全の為なのです。」
と、いうことを理由に説き伏せていた。
これは、何度かレイレイの身体能力を検査していたときに、まだ体を動かすことが出来るようになってからわずかな時間しか経っていないにも関わらず、レイレイは、かなりの力を持っていることがわかったからでもあった。
具体的にどのくらいの力があるのかは、まだ不明であったが、まだ身体機能がほとんど機能していない状態で、、セルが用意した木製のおもちゃにじゃれて、叩き壊したことがあったのだ。
同じ形状のおもちゃをストレバウスに力任せに踏んでもらったが、レイレイがそうしたようには壊すことはできなかった。
その後、セルはしばらく世話を続けるのをためらっていた時期があったのも事実である。
それに、そんな様子を見れば、セルがレイレイに積極的に関わろうとしないのも当たり前とも言えた。
結局、犬歯を丸く磨いだり、蜥蜴のように尖ってきた爪を短く切ったりと、無意識に人を傷つけてしまいそうなキメラとしての身体を、ガリンが治療を施したことにより、ようやくセルが再び世話を再開してくれた。
また、歩く訓練も兼ねて、日中、庭に出るときには、白い質素な部屋着から、オレンジ色の上下セパレートの短衣に着替えていた。
ただ、腕と大腿の竜鱗を隠すために袖も裾も長くしたり、背中には小さな羽を通す穴が開いていたりと、普通の服とは違う部分もあった。
また、頭にちょこんと生えた角を隠すように、アップの状態から後ろに長く流してる髪の毛が背中まで大きく掛かっており、実際にその可愛らしい羽は殆どみえていなかった。
レイレイの黒髪は光りに反射してつややかに輝いており、この髪をすくときだけは、いつもセルも楽しそうであった。
しかし、小さいとはいえ、その頭に2本ある小さな角をみる目は、セルが初めてレイレイの角に気づいた時から変わらないままの、怖さを内包していた。お世辞に見ても、温かいもの光を宿した視線とは言えなかった。
ある時、いつもと同じようにセルがレイレイを庭で運動させていると、ルルテとジレが焼き菓子をもって訪れたのだが、このときを境に、セルのレイレイに関する印象が少しづつ変化していったのだ。
セルは、レイレイが運動する様子をテラスに据えられた椅子に座って眺めていたが、ルルテが近づいてくるのに気づくと、すぐに椅子から立ちあがって、にっこり笑いながら頭を下げた。
ルルテは、セルに軽く労いの言葉をかけると、ジレにお茶の用意をするように告げた。
ジレがルルテの前にお茶と焼き菓子を並べると、それを手にとって、ルルテがうなづく。
ジレ。ルルテがうなづいたのを確認してから、隣の円卓に、セルとジレの分お茶と焼き菓子を並べた。
ガリンが最初この屋敷に来た当時は、2人の女官たちは、ルルテとお茶一緒に飲むどころか、単に席を並べて座るだけにも、難色を示していた。
もちろんルルテ自身も、席を共にしないのは、当たり前と考えていた。
しかし、闘技大会での事件の後、ガリンが、今、ルルテ達が集っているこのテラスに、屋敷のもの全員を集めて、全員が同じ机を囲み、
『信じられる人間は、ここに集まっている者のみであること』
を告げたあの時を境に、屋敷に居るもの達の距離感が、少しずつ変化を始めたのだ。
もちろん、王制国家である以上、身分は絶対である。
ルルテが王女であることは変わらないし、セルやジレが女官という、ルルテに仕える立場であることもまったく変わった訳ではない。
しかし、彼らの間には、その身分を超えた一体感、ある意味家族のような絆が生まれ始めていたのだ。
そのことは、まず普段の生活のはしばしに現れていった。
最初に現れたのが、お茶時間に、女官たちがルルテと席を席を共にするようになったことである。
もちろん、ルルテの許可を待ってから女官が行動を起こす点については、しょうがない部分であったのだが、それでもガリンは、それをとても良い方向への変化だと考えていた。
レンが聞いたら、それこそ眉をしかめるかもしれないが、この屋敷にいるものが、より強い絆でむすばれていくことこそ、ガリンが望んでいるものだった。
そしてそれは、自身が護士として守る、ルルテの安全にも繋がるものである。
この時も、ルルテの許可を得たジレは、自分たちのお茶を並べたという訳である。
レイレイは、ジレがお茶や菓子を並べている間も、夢中になって、噴水の水を飲んでは、噴水の周囲を跳ね回っている小鳥を夢中で追いかけていた。
まるで子猫が、玩具にじゃれているかのように、文字通りに飛び跳ねながら走り回っていた。
「しかし、あのものは本当に文明の使徒なのか?よもや中身は野生動物ではあるまいの?」
ルルテが、そんなレイレイの様子をみながら、ぼそり、とつぶやいた。
ジレは、わざとらしく大きく相槌をうっていた。
セルは、
「護士殿がおっしゃるには、もともとのレイレイの記憶が戻らぬ以上、単なる子供なのだと。さらに、元になっている体-竜である-こともあるので、多少、人の子とは異なる生育をみせるということでした。」
微笑ましい笑顔と共に、自らが世話をしている半竜半人の娘を見つめた。
「しかしな・・。未だ言葉もしゃべらぬようでは、機知のある会話を楽しめるようになるのは、いつなるのやらわからぬな。」
ルルテは、ため息を付きながら、机の焼き菓子に手を伸ばした。
ルルテがそれを口に運んだ瞬間。
小鳥を追っていた、レイレイが唸り声をあげた。
それと同時に、ルルテの前に向かって大きく跳躍をしたのだった。
バサッという音と共に、ルルテの目の前に着地したルルテは、両膝を曲げたまま両手を上にあげて、今にもルルテに襲いかからんばかりのものであった。
とはいえ、外から見ていれば、体の大きさは所詮7歳の女子のものである。恐ろしさというよりは、むしろこっけいさ、あるいは可愛らしいといった雰囲気が見え隠れしていた。その女の子が普通の女の子であれば・・・である。
それゆえ、セルは、目を見張り、
「姫様っ!」
と、叫び、レイレイがルルテの前に着地すると同時に、ルルテとレイレイの間に割ってはいった。
セルは、そのままレイレイを睨みつけると、そのまま手を広げた。




