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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第9章 レイレイ誕生
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レイレイ誕生 その16


エバの作業開始に対する承認を確認したガリンは培養槽に近づき、元力石の1つに手を触れて水を抜き始めた。

培養槽内の水位が下がると、肩までの黒髪が顔に貼り付きレイレイの顔を隠した。


足首まで水位が下がると、予想通りにレイレイが咳き込み始めた。


水が無ければ浮力を得ることができなくなるため、誕生したばかりで筋力の発達していないレイレイは、自分の体を支えることはできなくなってしまう。

そのため、最初の咳と共にレイレイは、培養槽にもたれかかるように崩れ落ちた。


咳と共に、口から今まで培養槽を満たしていた培養液が少しずつ吐きだされる。

咳は次第に強くなり、レイレイの顔が苦痛にゆがんだ。


セルは顔を背けたが、ガリンは眉を寄せただけで、そのままレイレイを見つめていた。


それでも、時間とともに吐く水の量は減っていき、次第に、


「ヒュゥゥ・・・」


という、多少雑音は混じっていたが明らかに肺呼吸とわかる呼吸音が聞こえてきた。


ガリンは、円柱形になっている培養槽の硝子壁を、やはり元力石に手を触れることにより、結合していた分子結合をといて、砂状にもどした。


そのままセルに手招きをすると、セルは急いでレイレイに掛けより、その体を受け止めると、手に持っていた布で硝子の粒子を払い、濡れた体を拭いた。


その間にも、雑音の混じっていた呼吸音は穏やかなものへと徐々に変わっていった。


セルは灰色の厚手のローブを着せ、用意していた車椅子にレイレイを座らせる。

呼吸が落ち着き始めると、レイレイはようやく瞬きを始めた。


ガリンは、自分の意伝石に手をやると、


『おはようごいます。レイレイ』


そう意思を送った。

返答はなかった。


見た目にもレイレイは、目は開いていたものの、殆ど反応がない。

ガリンは、エバの方をみると、


「エバ殿。これは?」


エバは、急に話を振られた事に、多少まごついていたが、


「俺にきくなよ。坊主、俺だって初めての経験なんだぜ。」


両手をあげて頭を振った。


「確かにそうですが・・。」


『大家と呼ばれる術士がこれか』という、ガリンの如何にも不満げな表情に、エバは、『ちっ・・・』と舌打ちして、


「くそ坊主が・・・。まあ、あれだ。今まで培養槽の中にいたんだ。それに前にも言ったが、そいつは赤ん坊と同じなんだよ。」


今度はぞんざいであったが、自信の考えを投げ捨てるように返答した。

ガリンは、表情を変えずに、


「そうですね。まず屋敷に運びましょう。」


と、エバの返答には、同意も否定も返さず、行動を次に移した。


そんなガリンに、エバは大きく体を揺らして、鼻を鳴らしたが、ガリンはエバの抗議は無視して、レンに許可を求めるかのように視線を向けたのだった。。

レンも2人のやり取りには微妙な表情を浮かべていたが、結局何も言わずにゆっくりと肯いた。


一方、車椅子に座ったレイレイを支えながらガリンの合図を待っていたセルは、何度かレイレイの髪を撫でようとして手を伸ばしかけたが、その髪からのぞく2本の角をみる度に、手をひっこめてしまうという行為を繰り返していた。

もちろんガリンからはレイレイの身体的特徴等については聞いていたが、やはり実際に見てしまうと、人と違うその様子に、さすがのセルも当惑しているようであった。


ガリンは、その様子を視界の端で捉えていたが、努めて淡々と、


「行きましょう。」


とだけ言った。


セルは、まだ少し狼狽をしていたのだが、ガリンに視線で促されると、諦めたように、レン、エバに軽く会釈をし、部屋の入口に向かった。


セルが、レイレイの車椅子を押して、部屋の入口に差しかかったときに、レイレイの右腕がゆっくりあがった。


「ひっ・・」


思わず小さな悲鳴をあげてしまったセルが、文字通りに後ろに飛びのいた。

と、同時に暗かった部屋の照明が一気に明るくなる。


「「「「!?」」」」


その場にいた4人全員が、上を見上げた。

同時にガリンの頭の中には、ある言葉がこだましていた。


ガリンは、すぐさまレイレイに駆けより肩を両側から掴むと、


「レイレイ。君なのか?」


とレイレイの顔を覗き込んだ。

しかし、既にレイレイの腕はもう力無くゆれているだけだった。


「先生・・。」


ガリンは、レンの方をみる。


「驚いたな。その娘がやったのかの?」

「そうとしか・・。」

「おいおい。まさか。」


エバも口をはさむ。続けて、


「いいか、坊主。この部屋の明かりは単に撫でただけじゃ点きゃーしないんだよ。」


と。


「それは知っております。」


ガリンも当然そんなことは知っている。

ただ、ガリンには不思議と自分の感じたものが正しい自信があったのだ。

ただ、この場でそれを言うのは何か違う気がして何も言わずに、『知っている』という返答にとどめたのだ。


「じゃが、エバが点けたわけではないのじゃろう?」


「まあな。」


判らないものは解らないし、また信じたくないものもある。エバも首をひねるだけだった。だからなのか、


「そいつは、俺に言わせればな、謎だらけなんだよ。」


と、ただ『謎』で片付けたのだ。

レイも顎に手をあて、


「じゃな・・・。」


と、言いながらガリンガリンに視線を向けた。

レンはレンなりに、弟子は何かの答えにたどり着いているにではないかという振りであったのだが、ガリンは、レイレイの垂れ下がった腕を膝の上にもどし、


「レイレイのもとの人格は間違い無く晶角士です。そして、今確信しましたが、レイレイはここにいます。」


と、ガリンにしては検証のない確信を口にした。

レンは少しだけそのガリンの反応に驚きはしたが、


「我が弟子よ。それはそうじゃが、いまの現象は説明できんじゃろう?」


と、やはり不確定要素が多い話であり、不安を口にした。反対にガリンは、何かを確信したかのような口調で返答した。


「先生、エバ殿の言うように、今はまだわからないことだらけなのです。レイレイの意識がはっきりとして会話ができるようになれば、問題も少しずつ解決することでしょう。」


「それはそうじゃが・・。」


「とにかく、今は屋敷に連れて帰りましょう。」


結局、ガリンの『現状での議論はここまで』と言わんばかりの発言にレンも頷いたのだった。


「そうじゃな。すべてが明らかになるのはこれからじゃからな。」


レンのその呟きはガリンには届かなかったが、エバはレンに対して肩を竦めてみせた。


その後、研究室の階段は、ガリンとエバとレンの3人で車椅子を担ぎ、左翼に着いてからは、ガリンとストレバウスで、車椅子を担ぎ、そうやってようやくレイレイは、屋敷に到達をした。


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