レイレイ誕生 その14 ルルテの追求
現実に引き戻されたルルテは、レンに軽く会釈をして、ガリンに向き直ると、
「この竜の少女がレイレイなのだな?」
再度、確認するのだった。
「竜では・・・。」
ガリンが頷きながら、『竜の』というルルテの発言に対して口を開きかけると、ルルテは素早く手でガリンを制止する。
「ガリン。なぜ、このように成長してしまったのかの難しい話は答えなくて良いぞ。」
ガリンは、今回の肝の部分の説明が制止され顔をしかめたが、素直に
「はい。」
とだけ返事をして、ルルテの次の言葉を待った。
「この者は人なのか?簡単にな。」
ガリンは、その問いの答えとなるかどうかはわからなかったが、その説明には、
『どうしてレイレイを竜と人のキメラとして誕生させなければならなかったか』
の説明をしなければならい。
しかも簡潔にと釘を刺されてしまったので、どう説明したものかと唸る。最終的にはレンの手助けを借りながら、なんとかその理由を説明して聞かせたのだった。
説明を聞いたルルテは、
「そうか。大儀であった。」
とだけガリンに声を掛けた。
ルルテのガリンの必死の説明への感想は、それだけだった。エバは、その様子を極めて愉しそうに目を細めていた。
ルルテは、努めてエバを無視して話を続けた。
「相変わらず、そなたの話は回りくどくわかり難いのは大目にみよう。つまり、レイレイの意識体を安全に定着させるためには、この身体しかなかったということなのだな?」
「そうとも言えます。」
あっさりルルテにまとめられたためガリンは少しだけ釈然としなかったが、ある意味的を得ていたので、ここも少しだけ言い訳がましい口調ではあったものの頷くしかなかった。
ルルテも頷き返し、更にガリンに問いただす。
少しだけルルテの口調が、トゲトゲしいものに変化した。
「もう少し聞きたいことがあるぞ。」
「はい。」
ガリン以外の2人はルルテの変化に気が付いたが、ガリンはまったく気付かない。
「この者、いやレイレイは、この状態で完全なのだな?」
「育成状態のことを言っているのであれば、そうです。」
「かなり幼いように見えるが?」
同じ口調でルルテの質問が続く。
「培養槽で育ちましたので実年齢はわかりませんが、肉体の生育状態からすれば、せいぜい7、8歳というところしょうね。」
「レイレイは、そんなに若かったのか?」
「いえ、これはこちらで培養した結果がこの肉体年齢であっただけです。」
「うむ。よかろう。」
ルルテは一人で納得しながら、どんどん質問を続けていく。
ガリンは、ルルテが何に納得して『よかろう』等と頷いているのかはわからない。ただ、培養過程では一切ルルテに状態等の説明をしてこなかったこともあり、ここで好奇心が爆発してるのだろうか、あるいは仲間ハズレにされて拗ねているのかと勝手に推測し、とにかく返答することに集中したのだ。
「体の鱗やあの羽はいずれは無くなるのであろうな?」
「残念ですが、それはわかりません。」
「一生あのままなのか?」
「かもしれません。」
「わからぬだらけだな・・・。そういう趣味なのか・・・。まあ良い。問題はそこではないからな。」
「趣味?問題?」
ガリンは、ルルテの『趣味』『問題』という言葉に引っ掛かりを覚えたが、考える間もなく次の質問が来たので、とりあえず脇にやった。
「あの水槽からいつ出せるのだ?」
「明日にでも。」
この返答には、極めて満足そうにルルテが頷く。
「なるほど。直ぐに可能なのだな。で、水槽から出たらすぐに、会話は可能なのか?」
「いえ。それは難しいでしょう。体の大きさこそ7歳程度ですが、実際には生まれたばかりの赤子と同じなのです。」
「どういうことだ?」
「歩くこと、食べること、そして喋ることも教えなければならないでしょう。」
「そうか・・・。」
ガリンは、『なるほど。ルルテはレイレイと早くコミュニケーションが取りたいので、焦るように質問をしているのかもしれない』そう、考え、
「すぐに会話を交わしたいと思われるでしょうが、いま暫くの辛抱が必要です。」
と、ルルテの気持ちを考慮し、なだめる様に説明を加えた。
しかし、ルルテ態度も口調も変わらなかった。
「レイレイはどこで生活をするのだ?」
「それは考えておりません。」
「では、我が屋敷で生活をしてもらうこととしよう。」
「えっ?いや、それは・・。」
「何か問題でもあるのか?我は近くで監視したいのだ。」
「監視??どのような成長をするのかわかりませんので、経過を観察すろのあれば、よりこの実験室から外にだすわけには・・。」
「いや、そうではない。いや、そうだな・・・。では、そなたはレイレイをそれまでこの暗い部屋に閉じ込め、2人きりで観察すると申すのか?」
「そういう訳では・・・。」
ぶっちゃけルルテとガリンの会話は成り立っているようで、どうも噛み合っていない。いよいよ見かねてレンが会話に割ってはいる。
「ガリン。どちらにしても、お主の目の届く範囲に置くことになるのじゃ。お嬢ちゃんの判断は正しいかもしれんぞ。」
「先生・・。」
ルルテはレンに肯くと、
「ということだ。」
ガリンに勝ち誇った顔を向けた。
「はい。」
ガリンも正論で武装されては抵抗のしようすがない。
「では、明日、レイレイを水槽からだしたら、屋敷に連れてまいれ。」
「承知しました。」
「それと、もう1つよいか?」
もともとトゲトゲしかった声のトーンが、更に1つあがる。
「ガリン、そなたは、ずっとこの研究室で、あの状態のレイレイと共におり、眺めておったのだな?」
「それはもちろんです。」
ガリンは『研究対象なのだ』と、さも当たり前のように返答した。
「何が『もちろんだ』だ。レイレイは女の子なのだぞ。それをそなたは、あのような一糸まとわぬ姿でいる者を、つぶさに観察しておったというのだな?」
「はい?」
ルルテの口調は質問を通り越して、既に尋問のように変わってしまっている。
ガリンは何を責められているのかもわからず、慌てて生返事を返すのみであった。
「わからぬのか?我は、なぜ服を着せなかったのか?と訊いておるのだ。」
ガリンの頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
「一体何の話ですか?もちろん培養槽の中ですし、服を着せてしまったら肉体的な欠陥が発見できないではないですか?」
「そんなことは聞いておらぬ。」
ルルテがバッサリと切り落とす。
ルルテは髪をなびかせながら、レイレイの培養槽を振り返り、指差しながら叫ぶように問いただす。
「よもやそなた、あのような幼女に心を惹かれたりはしておらぬだろうな?」
「は??」
ガリンは呆気にとられ、間抜けな声をあげた。
「は??ではないぞ。心して答えるが良いぞ。」
ガリンは、ますます混乱し、『心を惹かれる?』一体何のことを言われているのか皆目見当がつかなず、情けない顔でレンに助けを求めた。
レンは、ルルテの肩に手を置くと、
「お嬢ちゃんが、心配しているようなことはないじゃろう。ガリンは、大切なお嬢ちゃんとの約束を守るために、持てるすべての時間と、力を費やしてレイレイを見守っておったのじゃ。」
「なっ※!¥%@」
ルルテは、予想しないレンの言葉に息を詰まらせた。
そして、自分の顔が赤くなっているかもしれないことが、部屋の暗さでわかないことに感謝をし、
「そ、それならよいのだ。」
努めて鷹揚にレンに頷いた。
レンは大人しくなったお姫様と、その横で呆然としている弟子に笑顔を向けて、
「ガリンよ。今日はもうかなり遅い時間だな。我が不肖の弟子よ。明日のレイレイを培養槽から出す準備もあるだろう。今日は、この老骨がお嬢ちゃんを屋敷に送るとしよう。よいじゃろう?」
ルルテに許可を求めるレンの声は優しかった。しかし、どことなく反論を許さない強さもあったのだった。ルルテは、焦ったように頭を振り、
「も、もちろんだ。どこぞの鈍感男は我のために明日の準備でもしておればよい。」
そう言いながらガリンに背を向けた。
「・・・。」
ガリンが無言でレンとルルテの背中を見つめるしかなかった。
レンは、ルルテの肩をもう一度優しく叩くと、
「こら、そう虐めるでない。行こうかの?」
「うむ。」
部屋を去ろうと踵を返したレンに、ガリンが頭をさげる。
レンは軽く肯き、そのままルルテと一緒に研究室を後にした。
エバも、
「いや、こら、くそ生意気、ああ不肖の弟子、そうか鈍感男・・・・まあ坊主の情けない姿を見られて、今日は良く眠れそうだな、うひゃひゃひゃひゃ。」
と、笑い声をあげながらレン達の後を追うように自分の作業に戻っていくのだった。
語尾の修正。一文の短文化。2026.1.4




