レイレイ誕生 その12
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ガリンは、レイレイの状態が安定しているのを確認すると、一旦ルルテの待つ屋敷への帰路についた。
ここ数日間は、レイレイの体の完成が間近であり数日中にはルルテにもレイレイを紹介できる、という事情を説明して日々の勉強の時間の休みを取っていた。
ルルテもさすがにレイレイの体の完成を待ちきれず、不平をこぼし始めた矢先のガリンの提案であったこともあり、素直にそれに従い、ガリンが呼びにくるのを待っていたのだ。
ガリンが屋敷に戻り、ルルテを呼んでいるということを女官から伝え聞いたルルテは、王宮で茶会をそうそうに切り上げ、屋敷へと足を急いだのだ。
ルルテは、屋敷に入るなり、ガリンの部屋の扉を開けると、
「ガリン、いよいよなのだな?」
そう、声を掛けた。
しかし、ルルテが目にしたものは、いつもの黒衣をまとったままのガリンが、ベットにもたれかかるようにして寝息を立てている姿だった。
ルルテは、大声を出しながら扉を開けたことを少しだけ反省して、今度は音がたたないようにゆっくりと扉を閉めた。
ルルテは、こっそりとガリンに近づくと、体をかがめてガリンの顔を覗きこんだ。
よほど疲れていたのか、光浴すら浴びていないらしく、かすかに汗の臭いが残っていた。
ルルテは、急に自分が恥ずかしいことをしているのではないかと頬を赤らめたが、そのままガリンの黒髪を手櫛でなんどかすくと、再び音を立てないようにして部屋を後にした。
ガリンが目覚めて、自分が寝てしまっていることに気づいたのは、夕方近くになってからであった。
光浴で、生態機能をチェックし、ルルテに用があることをセルに伝えた頃には太陽は完全に西に傾いていた。
ガリンが食堂で待っていると、ルルテが勢いよく入っていくる。
「そなた、我を呼んでおきながら一体どれだけ待たせるつもりなのだ。日が暮れてしまうではないか?」
ルルテの口調は厳しいものであったが、どこか労るような温かさを含んだ声であったが、同時に拗ねるように口を尖らせてもいた。
「申し訳ありません。今日はもう時間があまりありませんので、明日にでもゆっくりと・・・。」
ガリンがいつもの顔で、頭を下げながら予定を明日に延ばす提案を口に仕掛けると、
「何を言っておる!?後3分の1も今日が残っておるではないか?いくぞ。」
ルルテが、ばっさりと話を切った。
「しかし・・・。」
「ガリン。そなたが寝ておらねば、もっと早くいけたのではないのか?」
ガリンの必死の抵抗に、ルルテが痛いところを突く。
「それは・・・。」
実際にこの時間からエバの研究室を訪ねれば、エバの機嫌は間違いなく損ねるだろう。ただ、自身が寝てしまっていたためにこの時間になってしまったこともあり、ルルテが指摘したように落ち度は自分の方にあるのだ。
ルルテがこうなったら、とにかく行くことは決定も同じだ。
ガリンとしても、明日に延ばせそうな良い言い訳もなく言葉を詰まらせるしかなかった。
そんなガリンの様子を、いつの間にか腕を組んで尊大な態度でジト目で見つめているルルテが、急に『コホンッ』と咳き込み、
「よい。ずいぶん疲れていた様子だったからな。今回だけは、特別に許すぞ。」
と、女王然として言葉を掛けた。
ガリンはルルテの言葉を口の中で反芻すると、急に顔をあげ、
「ありがとうございます。それで見てきたような口振りですが、私が寝てしまっている間に、部屋にお訪ねになったのですか?」
ルルテのその口振りに不思議そうな顔をして尋ねた。
ルルテは、左右をみて上をみて、そして頬を紅く染めて、
「だ、だ、誰がそのようなことをするものか。疲れた様子だったと、セルから聞いたのだ。」
と、明らかに狼狽した口調で言った。
ガリンは自分の質問の何に狼狽したのか判らず、ますます不思議そうな顔を浮かべたが、
「そうですか。」
とだけ無難に頷いたのだった。
ルルテは相変わらず、動揺をしていたのか、
「そ、そ、そんなことはどうでもよいのだ。行くぞ。」
舌を噛みながら、研究室に向かうこと屋敷の外に視線を向けた。
ガリンも『どうせ行くのであれば・・・』と、覚悟を決め、
「はい、では。」
と返事をして、ルルテの後ろに控えていたセルに目配せをして屋敷の門に足を向けた。
ガリンがルルテに続いて外に出ようと足を一歩踏み出したとき、ルルテが勢い良く振り返り、
「何をしておる。いつもの服に着替えんか?」
と、ガリンの自室を指差した。
「は?」
今度はガリンが不思議を通り越し、素っ頓狂な声をあげた。
「は?ではないぞ。我と外出するのであろう?変装が必要ではないのか?」
「まさか、あの服で学院に行けと・・・。」
ガリンの頬がひきつる。
「そうだ。問題でもあるのか?」
「しかし・・。」
「そなたが、ごねている間にどんどん時間がなくなるではないか?
ジレ、ガリンの服を用意いたせ。」
これでもう議論はおしまい、というように、ルルテはジレに命じると、会話を締めくくった。
いつものことであったが、助けを求めるように周囲を見渡したが、もどってきたのは年配の女官のセルの笑顔だけであった。




