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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第9章 レイレイ誕生
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レイレイ誕生 その11


ガリンがひどい頭痛を我慢しながら、レイレイの顔を再び覗きこんだまさにその時、ゆっくりとレイレイのまぶたが開き始めた。


そして、まぶたの中の瞳が、レイレイの顔を覗き込むガリンと目を捉えた。


その場にいる全員が息をのみ、時がその役目を忘れたような静寂がその場を支配した。

同時に、ガリンの耳鳴りと頭痛は嘘のように消え、レイレイの額の元力石も光りを失った。


ガリンは体を支えていた腕を培養槽から離し、レイレイの正面から、再びその目を合わせた。


目を開くまでは判らなかったが、その目は人のものとは若干異なっており、爬虫類を思わせる長い瞳孔がみてとれた。


レイレイが、ゆっくりと1回瞬きをしたかと思うと、一瞬だけ額の元力石から光りがこぼれた。

その後、レイレイはまぶたを閉じ再び眠りについてしまった。あるいは、そのように見えた。


我に返ったレンが、静寂を破るように口を開いた。


「ガリン、最後の光りはなんだ?何か意思の疎通が叶ったのか?」


ガリンは、ゆっくりとレンに向き直り、耳鳴りと頭痛による倦怠感を振り払うかのように、大きく深呼吸をすると、


「いえ。何も・・・。」


そう言って、培養槽を見守っているときにいつも座っていた椅子に腰をおろした。


「おい、本当になにもないのか?」


エバもレンに続いて追求を行なう。


「はい。特に何も。」


ガリンは、疲労した様子を隠しもせず、物憂げに返答を行なう。


「まあ、よいわい。エバ、これは成功なのじゃろうかの?」


レンは、質問の対象をエバに移した。


「まあ、身体的なものは問題なさそうだし。言葉にならないとは言え、ガリンに意思を送りつけてきたことは、そこに意識があることには他ならない。」


「ふぅ。」


完全に覚醒したわけではないため、限定的ではあるが、レイレイと呼ばれる意識体の身体の培養、そして意識の定着に成功したというエバの返答に、レンは安堵と共に頷いた。


「凶暴で暴れだす様子も無いしな。」


「うむ。」


とりあえずは、竜として敵対行動を取っていないため、エバの心配も現段階では杞憂であったと言えるだろう。


「まあ、目的の通りに、もともとの意識体の記憶をそのまま共有しているかどうかは、培養槽から出してしばらく様子をみないとわからんがな。」


「なぜじゃ?」


「おいおい、レン、ぼけたのか?お前だって、俺の研究のことを何も知らんわけじゃないだろう?」


エバが大げさ身振りで、レンに返す。


「もったいつけるんじゃないわい。わからぬから聞いておるじゃ。」


レンも知識欲には勝てないらしく、素直に白旗を揚げた。


「ふん。殊勝なことだな。いいか、レイレイはもともと人だ。そしてあそこにいるのは、見た目は人だが、実際には竜だ。言語中枢など脳の役割もさぞ違うだろうさ。意識体としては、いっぱしの成体だっとしても、体を得た今は、単なる生まれたばかりの赤ん坊なんだぜ?

訓練も学習もなしには、歩くことすらできないだろうさ。しゃべったり、ましてや意識体としての自我を完全に定着させることができるのはまだまだ先だろうな。」


「なるほど。」


鼻を鳴らしながらもの説明であったが、その丁寧な説明にレンも素直に納得した。

そしてエバは、ガリンの意識がこちらに向いていないことを確認すると、レンの耳にようやく届くほどの小声で、


「それにな。あの体にレイレイの意識体を定着させるのが、いささか遅かったように俺は思っている。」


と、残っている不確定要素を口にした。


「どういうことだ?」


レンも小声で返す。


「これは予測の範囲だけどな。あの体の本来の主、つまりレイレイではない先客の自我も目覚めている可能性だってあるんだ・・・。」


「その場合はどうなると思っておるのじゃ?」


「どうもならんさ。レイレイの意識体が体の統制を完全に行なえるようになれば問題はないし、万が一2つの意識が同居したとしても、あの若い晶角士が育てなければならない餓鬼が1人増えるだけだろうよ。もっとも、竜の方の意識を制御出来ればだがな・・・。」


「ふむ。危険があると?」


一瞬であったが、レンの顔が曇る。


『もし、覚醒した状態で最悪の決断をしなければならない時、対応が可能なものなのか・・・。』


そんな不安がレンの頭を過ったのだ。

エバは、レンが自分と同じ不安を感じているのだろうと判ってはいたが、ある意味『賽は投げられた』のだ。今は出来ることは無い。あの若い才能溢れる晶角士が説明した『安全装置』としての紋様を信じるしか無いのだ。


「わらるもんか。何もなければいいが・・・。何もなければ、まあ悪くて2重人格に周りが迷惑する程度だ。今は見守るしか無いな・・・。」


エバは、投げやりに、そして今は現状を受け入れ、見守るしか無いことを、彼なりの不安を感じさせない軽口を混ぜてレンに伝えた。


「そうか。」


レンも今は頷くしかなかった。

エバは埃を払うように、パンパンとでっぷりと突き出した腹を叩き、


「さて、俺は少し休むとするさ。とりあえずあの男が目的とする通りに、レイレイは体を手に入れた。あとは小僧がこれからどうするかだ・・・。」


そう言った。言葉の最後の方は、すぐそばに居たレンにも聞こえないぐらいに、尻窄みに小さくなって消えた。


レンはも何も言葉を返さず、一回だけガリンとレイレイに視線を向けると、そのままガリンにも何も声を掛けずに、エバに続いてその場を後にした。


実は、ガリンは興味が無い振りをしながら、レンとエバのヒソヒソ話に耳を傾けてはいたが、どの話も自分が想定した範囲内のものであったこともあり、最後の方は、他の事が気になっていて、ほとんどうわの空であった。


それは、ガリンの頭の中は、想定外とする事柄が渦巻いていたからでもあった。いや正確には1つの言葉。


レイレイが瞳を閉じる前に、意伝石を通じてガリンに送った1つの言葉。


「パ・・パ・・・。」


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