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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第9章 レイレイ誕生
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レイレイ誕生 その10


エバの問い掛けに、ガリンは即座に返答を返す。


「ええ。何度か、意伝石を介して、直接意識体に接触を行なおうとしているのですが、反応はありませんね。」


その声からは、何の感情も読み取れなかった。


『こいつはあいかわらずだな。焦りや不安はないのかね・・・。』


エバは、理解できないものを見るような目をガリンに向けて、そのまま培養槽に目を向けた。


「しかしエバ殿。もしレイレイの意識体が正常に体躯と融合していなければ、反応がないのはおかしいのです。」


「どういうことだ?」


エバが『もっと分かりやすく説明しろ』という顔で尋ねる。


「あの頭冠は意伝石と同じ効果を有しています。もしあそこに意識がなければ、私の意思はそのまま私にはねかえってくるはずです。」


「なるほど。反応はないが、意思そのものは受け取っていると・・・。つまりレイレイによって受け取られているからこそ、オウム返しに戻ってくることがないということだな?」


「はい。」


ガリンの返答に頷きながらも、


「だがよ。このままずっと放っておく訳にもな・・・。」


と、エバは現実の問題をガリンに指摘した。


「それはわかっております。」


ガリンも幾分重々しく頷いた。

意思が定着していても、覚醒しなければ失敗であるからだ。

今度は、ガリンの判りにくい焦りの表情を感じてか、


「ま、とにかくだ、何か変化があったら、すぐ俺を呼ぶんだぞ。」


そう言ってエバはその場を後にしようとした。


「は、い・・。」


キィィィィィィィン・・・・・


エバの問いに答えようと肯いた瞬間、ガリンの頭の中に耳鳴りのような金属音にも似た音が響き渡る。


ガリンは目を見開くと、そのまま頭を抱えて、床に膝を付いた。


「おい、一体なにが?」


エバがガリンに駆け寄る。

ガリンは、エバの動きを、片方の手で制すると、そのままレイレイの培養槽を指差した。


エバは、ガリンの指差す方向、レイレイの培養槽に体ごと向き直ると、一歩踏み出して、凝視した。


培養槽の中のレイレイの額の元力石が強い光りを放っていたのだ。


「おい、なんだ。あの光りは?なんの文様を彫りこんだんだ?何が起こったんだ?」


矢継ぎ早にエバがガリンに質問を浴びせる。


ガリンは、ゆっくりと立ちあがると、酷い頭痛を振り払うように左右に頭を振って、自身も体を培養槽に向けた。


「何も彫ってはいません。レイレイは、元力石に魂を定着させた後も、しばらくあれに似た光りを放ちながら、意思を私に送っていました。

おそらくそれと同じことが・・・。」


「にしたってな・・・。」


エバは、この状態を、あきらかな異常状態と捉えていた。

この培養は、全てにおいて未知な部分が多すぎるのだ。培養槽に設置されている紋様1つをとっても、エバは全てを理解できているわけではないのだ。

ガリンは、響く頭痛に顔をしかめながら説明を続けた。


「これもおそらくですが、今はあの時とは違って、外界からエネルギーを取り込んでくれる頭冠があります。わたしはこの言い方は好きではないのですが、レイレイの魂が全身の統制のための信号を送っているのではないでしょうか?」


「じゃあ、覚醒が近いと?」


「わかりません。っっつ・・・。まだ言葉にならない悲鳴のような意思が私に流れ込んでいます。」


ガリンが顔を歪める。


「俺にはなにも流れ込んでこないぞ。どうしてお前だけに。」


「わたしは非科学的な話は嫌いなのですが、言うなれば、魂の設計図が似ているのかもしれません。」


「魂か・・・。もしそんなものがあるのであれば、我々の実験はやはり・・・。」


ガリンの道理に基づくものではない、ある意味ガリンらしくない2度の『魂』という言葉に、エバが驚きながらも、大家と呼ばれる者としてはらしくない言葉を紡ごうとした時・・・


「エバ殿!」


ガリンが、エバの言葉を遮るように名前を叫んだ。

そして、続いた言葉はエバの抱いた懸念を言い当てたものであった。


「それは証明されている理論ではありません。あくまでも神話の世界の話です。あくまでも人は意識体、つまり意思により統制されているのです。

レイレイも魂などではありません。意思の蓄積が人格を生んだ、ひとつの擬似生命体なのです。生物はすべて、入れ物となる肉体とそれを統制する意思という情報の集合体です。それが現時点での理論です。」


「・・・そうだな・・・。」


自身の懸念?後悔?を完全に払拭出来たわけではなかったが、先程出そうになった言葉を飲み込むと、エバは、しばらく考え込み、そして頷いた。

ガリンは、レンの言葉を確認するように自身も頷き返した。


「まだ覚醒には少し時間がかかりそうです。エバ殿、先生を呼んでいただけませんか?今は意伝石を使えそうにありません。」


「わかった。」


エバは、培養槽から目を離したくないという思いに後ろ髪を引かれながらも、一旦部屋をでて、研究室にいた手近な研究員を捕まえ、学院の自室にいるはずのレンを呼びにいかせた。


間もなく、レンも研究室に駆けつけた。3人が培養槽の前に立ち、培養槽の中のレイレイを凝視していた。


ガリンの耳鳴りは、時を刻む毎に一層酷くなり、顔は青ざめ、額には油汗の粒が光っていた。


ガリンが這うようにして培養槽に手をかけ、レイレイの顔を覗きこんだ瞬間、額の元力石は一層輝きを増し、ガリンの口から悲鳴がこぼれた。


「おおおお。」


それと同時に、エバとレンが声にならない声をあげた。

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