レイレイ誕生 その8
レンにからかわれて、
「はっ?」
と、ガリンはすっ頓狂な声をあげた。
レンはガリンの普段見ることが出来ない反応に、さも愉しそうに言う。
「そうではないか?これは、竜のママと人としてのお前の娘だろう?
パパではないか?」
ガリンは、額に眉を盛大に寄せると、
「遺伝子融合を、そのような捉え方をすればそうですが、私にそのようなつもりは・・・。」
と、抗議をしたが、レンはどこ吹く風というように、話を続けた。
「生まれたこの子はどこで生活をするんじゃ?
この年齢で成長がとまったのであろう?
戸籍はどうするのじゃ?」
レンは、畳みかけるように質問を浴びせる。
「・・・。」
ガリンは、返事に窮し、無言でレイレイをみる。
レンが、思考提出気味のガリンを目で楽しみながらも真面目な声色を作って、
「それより、ガリンよ。意識体の定着を急がねばならぬのではないか?」
そう促すと、ガリンも『はっ・・・。』というような表情を浮かべ、急いで返答する。
確かに、ここまで育っているのであれば、肉体本来の意識が覚醒する前に、少しでも早くレイレイの意識を定着させる必要がある。
「はい。既にこの固体も無意識の領域ではあるでしょうが、意識が芽生え始めています。無意識の眼球の運動はその証拠でしょう。」
もともとレンがこのタイミングでガリンの元を訪れたのは、意識体の定着の補助のためである。
そして、ガリンの予想は妥当なものであった。
レンは、
「うむ。」
と、頷いた。
ガリンも、
「準備が整い次第、すぐに行ないます。」
と、師の肯定に準備を開始したのだった。
レンは、意識体の定着に必要な準備についての最終確認を行う。
「文様は?」
「意識体を定着させた元力石には既に人体融合の文様を彫ってあります。
額から前頭葉にかけて、頭蓋骨に固定すれば機能するはずです。」
ガリンの返答は淀みない。
「定着は誰がやるのじゃ?」
「私の意思力は完全に回復しています。あの文様は私独自のもので、能力席を定着させるものとはおそらく異なるでしょう。私が行ないます。」
これも、培養を始めた当初から決まっていたことである。
レンも紋様術士として、この手技に興味がなかったわけではないが、ものがものだけに、弟子が定着を行うことに異論はなかった。
「うむ。それがよかろう。培養槽の中で可能なのか?」
レンは次の確認を次に進めた。
「可能です。むしろ肺呼吸に一旦転換すると元には戻せないでしょう。
このまま行ないます。」
「わかった。ではエバに許可をもらうとするか?」
最終の確認に満足したレンが、エバからの許可を提案した。
「はい。」
ガリンは、幾分顔を引き締めて頷いた。
「お嬢ちゃんには伝えたのか?」
「まだです。」
「なぜじゃ?」
「意識体を定着させてから伝えようと思っています。
そこまでいけば9割方成功でしょうから。」
「そうか。」
レンは、直接今回の定着の準備とは関係なかったが、ルルテへの対応を確認した。
ガリンがルルテの事をしっかりと考えていることに、再び満足したレンは、ガリンを手招きするとそのままエバの元に向かった。
エバも、レイレイの固体が自我をもつことを危険視しており、すぐに意識体の定着をすることには賛成をした。
エバは、ガリンから再度定着の方法の説明を受けると、すぐに培養槽を一度停止する準備をはじめ、小1時間もすると、準備はすべて整ったのだった。
ガリン、レン、エバの3人は、培養槽を取り囲むようにすると、エバの開始の合図と共に、培養槽を一旦停止させた。
上部の蓋をはずすと、ガリンは、右の袖をまくり、そのまま培養槽の中に右腕をいれて、レイレイの意識体が定着をしている元力石を娘の額に押し当てた。
そのまま、目をつぶって、呪をつぶやきながら、意思の集中を始める。
額の元力石が強い光を放ったかと思うと、そのまま額に元力石が吸いこまれるようにして埋まっていく。
硬貨ほどの大きさを残して元力石が額に埋まると、もう片方の手に持っていた頭冠を額に装着する。
再び、頭冠に配された元力石が光ったかと思うと、レイレイの体が一度大きな痙攣をおこした。
痙攣はすぐに収まり、レイレイは再び眠るかのように静かに培養液の中を漂いはじめた。
ガリンは、培養槽から手を抜くと、蓋をしめて、エバに視線で合図を送る。
エバは、ガリンの合図を受けて再び培養槽を起動した。
「これで終わりか?」
エバが怪訝そうに尋ねる。
この道の大家と言われるエバではあったが、今目の前で見た紋様術は特別であったのだ。
額に元力石を定着させ、頭冠の紋様を周囲のエネルギーを自動的に収集し、そのエネルギーをもって意識の完全な定着と全身の統制を促すという。時が経てば頭冠がなくとも身体管理が可能との事だが、エバの知識をもってもガリンのやっていることはほとんど想像がつかなかったのだ。
ガリンは、そんなエバに対して極めて機械的に、
「はい。終わりです。既にあの頭冠が額の元力石のためのエネルギーを集めているはずです。」
と、作業が終了したことを告げた。
エバは、再度、『わからない。』といった仕草で、
「どうしてわかる?」
と、詰問した。
「先ほどレイレイが痙攣をしたのは、全身にレイレイの意識体が定着している元力石からエネルギーが伝わったからです。そうなのでしょう?先生。」
やはり淡々と返答し、そのままレンに話を投げた。




